第9話 スキルの使い道
「まず、ジョバンニさんは戦において最も重要な物はなんだと思いますか?」
「ふむ……兵の強さ……かな?」
ジョバンニは特に迷うこと無く答える。
その答えを持って、この世界の基本的な考えを佐切は理解する。
「成る程……大体分かりました。何となく予想通りでしたね」
「一体何が分かったというのだ? それに、そのスキルの使い道をいい加減教えてはくれぬか?」
佐切は頷く。
「ええ。良いでしょう。その答えは、さっきの戦において最も重要な物、につながります」
「ほう……」
「それは、情報です」
ジョバンニはその答えに納得が行っていないようであった。
その様子を見た佐切は例え話を始める。
「では、例えばジョバンニさんが今二階にいるとして、一階にいる僕が強盗に襲われたとします」
「ふむ」
「その時、僕が大声で騒げばあなたは気付いて助けに来るでしょう。しかし、それが王城で起きている。そしてあなたはこの詰所にいるとしましょう」
佐切がそこまで言うと、ジョバンニはその意味に気が付く。
「成る程……情報の伝達速度の話ですか……いち早く気がつければ手遅れにもならない……本来ならば伝令を走らせなければ情報が伝わらない所を、あなたのスキル『念話』があれば即座に伝えられると……」
今の時代ならば、情報は即座に伝わる。
スマートフォンやパソコン、SNS等の発達によって情報の伝達には距離にもよるが日を跨ぐ事は無いだろう。
しかし、今より技術が発達していない時代、それこそこの異世界のような技術力では離れた場所へ情報を伝えるのには何日もかかる。
鎌倉時代の元寇、その時も福岡にモンゴル軍が来襲し、他国からの侵略を受けていることを、鎌倉にいる執権、北条時宗は勿論、京にいる公家たちですら把握して居なかっただろう。
「情報は速度と正確性。この二つが重要です。このスキルがあれば、その二つを満たす事が可能です」
「ふむ……確かにこれまでも情報が伝わる頃には事が終わっていることもあった……これまで、『念話』は唯の便利なスキル程度としか思っていなかったが……成る程、戦の伝令に使えるのか。これは……戦争が変わるな」
佐切は頷く。
「試しに使ってみますか。どうやら、互いに承認しあえば可能なようです」
佐切は頭の中でスキルの使用をイメージする。
「ジョバンニ殿。スキル『念話』を佐切勘助と使うことを承認しますか?」
「あ、あぁ。承認する」
「よし……っ!?」
すると、佐切に急に頭痛が走り、頭を抱える。
「……」
「さ、佐切殿!?」
頭を抱え、佐切はぼーっとしていた。
「……」
「大丈夫か?」
「……ええ。問題ありません」
佐切は軽く咳払いをし、二階へと向かう。
「では僕は二階へ行きます。互いに念じることで会話が可能なので、準備が良ければこちらから念じます」
「あ、あぁ……」
そのまま佐切は二階へと消えていった。
「『念話』か……自分自身が試すのは初めてだな……」
少しすると、ジョバンニの頭の中に佐切の声が響く。
(もしもし? 聞こえますかジョバンニさん)
「お、おお! 聞こえるぞ!」
思わず、ジョバンニは口に出して答える。
結構大きい声だったのか、二階の佐切にも直接聞こえたようであり、佐切が降りてきて直接声が返ってきた。
「ジョバンニさん。頭の中で誰に言葉を送りたいか考えてから念じてみて下さい」
「あ、あぁ。すまない」
佐切はまた二階へと戻る。
ジョバンニは仕切り直し、もう一度試みる。
(え、ええと……聞こえているか?)
(はい。問題ありません)
すると、ジョバンニは少し笑みが溢れる。
(確かに……これがどれほど離れていても聞こえるというのならば確かに有用性はあるな……あなたがこの境遇から抜け出せる日も遠くは無いぞ)
(えぇ。これは、非常に使えます。ただ、この使い方が広まれば他の同じスキルを持った人達にも迷惑がかかりかねます。これは他に対して差をつける好機かもしれません。暫くは内密に行きましょう)
二人はスキルの有用性を互いに確認したのであった。
その後、佐切は一晩泊まり、この世界で初めての休息を得るのであった。
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