第10話 動き出す状況

 ジョバンニの詰所に寝泊まりして数日。

 その後も佐切は詰所に入り浸り続けた。

 その間もこの国の歴史や文化について調べ上げ、充分な情報を得ることが出来ていた。

 第六騎士団の団員の数名とも仲良くなり、このままここで暮らしていくこととなるのであろうと、佐切自身もそう考え始めていた。

 しかし。

 

「つまり、ここを出ていけと?」

「あぁ。そうだ」

 

 目の前には豪華な甲冑を身にまとった赤くて長い髪を後ろで一つにまとめた女性が立っていた。

 ジョバンニは所用で出かけており、他の騎士団員もまだ居なかった。

 

「いきなり来て失礼だとも思うのですが……まずは名乗っては?」

「無能な貴様に名乗る名前など無い。早々に立ち去らぬのならば、ここで斬る」

 

 女騎士は剣を抜く。

 その目は、本気であった。

 

「はいはい。わかったよ」

 

 佐切は両手を挙げ、女騎士の言う通りに詰所を出て行く。

 しかし、途中で足を止めた。

 

「なぁ、近衛騎士団の団長がこんな所に一人で出てきても良いのか?」

「な!? 何故私が近衛騎士団の団長だと……貴様は先日の仲間を与えられる儀式の時には居なかった筈……」

 

 その女騎士の反応に佐切は笑いを抑えきれなかった。

 

「ふ……ははは! おいおい、馬鹿正直過ぎるって」

「な、何だと!?」

「ジョバンニさんならもっと上手くやるよ? もっと精進しな」

 

 佐切は挑発しつつ、警戒を強めた女騎士を無視して歩き出す。

 

「そうそう。一つだけ助言。情報は出来る限り隠すこと。そんな豪華な甲冑で出歩いて、初対面なのに人の事を無能と言ったり、推測が非常に容易だったからさ。気を付けなよ」

「く……」

 

 佐切が挑発するも女性は動かなかった。

 そのまま、佐切は詰所を後にする。

 彼女が着ていた甲冑は、この異世界に来た時に周囲に居た兵が着けていた甲冑と非常に似ていた。

 そして、一般兵とは思えない豪華な意匠。

 団長とカマをかけると、見事に的中したのである。

 

(さて……一体どこの思惑か……まぁ良い。どうせこの国には居られないからな)

 

 佐切の調べた情報によれば、この国の基本的な考え方として、戦闘スキル持ちが優遇される風習があった。

 つまり、『念話』では生きていくのすら困難であるのだ。

 無論、ジョバンニに掛け合えば軍属として活躍も可能だろうが、あの女性がいるのならば、それも難しいのではと予測がついた。

 

「さて……これからどうした物か……ん?」

 

 暫く歩いていると広場にたどり着き、何やら騒がしい事に気が付く。

 

(喧嘩か……)

 

 巻き込まれないよう、物陰から様子を見る。

 その喧嘩の中心にいたのは、クラスメイトの真田護であった。

 

「あいつ……何をしてるんだ?」

 

 あまりクラスメイトと関わり合いになって来なかった佐切だったが、護は隣の席であったので知っていた。

 そして、護のスキルもしっかりと記憶していた。

 

(確かあいつのスキルは……なのに何で?)

 

 傍から見ると、一方的に殴られているように見える。

 しばらく様子を見ていると、護が顔面を殴られそうになる。

 しかし、護は軽く手をかざすのみであった。

 

「『シールド』!」

 

 護がそう言うと、敵対していた男との間に光の壁が現れる。

 拳は遮られ、護に届くことはなかった。

 しかし。

 

「がっ……」

 

 護は後頭部を思い切り殴られる。

 そして、今度は振り向きそちらに手をかざしてシールドを展開する。

 しかし、今度はまた別方向から殴られ、護は一方的に殴られていた。

 

「……成る程」

 

 すると、そこに別の男が現れ、護を襲っていた連中をなぎ倒していく。

 明らかに不利だと悟った連中は急いでその場を後にしていた。

 

「大丈夫か!? 護!?」

「あぁ。問題無いよ。ありがとうゴルドー。……彼等はスキルを持っていない人達さ。憂さ晴らしに付き合ってあげてたんだ」

「成る程……奴ら、魔王派の生き残りか……流石は勇者様。だが自分の身は大事にしてくれよ? 今度は大事な戦があるんだからな」

 

 その会話を聞き、佐切は歓喜する。

 

(……戦! 一体何処で……規模は? 魔王派とも言ってたな……気になる要素が多すぎるな……調べるとするか)

 

 少しずつ、だが確かに事は動き出そうとしていた。

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