6. シマウマのきもち

 例えば、四つには……




——ここは、肌が白いよりも、黒い方がいい、世界。




 怪しげな、暗く狭い路地。

 見窄みすぼらしい格好の〈白い人〉二人が、何やらコソコソと話し合っている。


「いいの仕事があるんだが、興味あるか?」

「おっ、マジ? 興味あるある! 月末でもうでさぁ……」

「だと思ったよ。で、仕事の内容なんだが……ちょっとワケありでだな……」

「なになに? 危ない系? 盗み? 薬物? いやひょっとして……殺し?」

「いや、流石に殺しではないが……あれだ、ブツの運搬だ。かーなり危険なブツだから、報酬は弾むぞ?」

「マジか! で、メラニンはいくらだ?」

「それがだな、報酬は単なるメラニンでなく……〈黒い人〉の色素細胞を移植してもらえるらしいんだ!」

「マジか! 細胞のメラニン生成能力は?」

「考えうる中で、最大だ。なんたって、頭蓋形ずがいがた大陸は赤道直下のメラニア国出身の〈黒い人〉の色素細胞だからな! それを、一平方メートル。仕事がうまくいったら、二人で山分けだ」

「おおーっ! それだけあれば、両手足と……頭のぶんには、なりそうだな。コウイカのイカスミを無理やり肌に練り込むのは、もううんざりなんだよ!」

「だろうな。これで我々も、皮膚ガンにならずに済むぞ!」


 この世界では、メラニンが、カネに代わる、あらゆる取引の媒介物となっている。肌の色素細胞のメラニン生成能力が低い〈白い人〉は、その大多数が貧困層に属する。また、宇宙の極度に強くなった地球において、メラニンの量は、皮膚ガンになりやすいかどうかを左右するという点で、生存のための重大な要素だった。〈白い人〉は、メラニンを得るために、危険な仕事に従事せざるを得ない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る