4. 鼻ヒクヒク

 例えば、二つには……




——ここは、鼻が高いよりも、低い方がいい、世界。




 屋外。


 〈鼻の高い人〉が……


「はっ……へぇぁッ……」


 鼻を、ヒクヒクと、むずがゆそうにして……


「ふわぁッ……」


 息を吸い込み大きくのけり……


「フゥァアアッックショーン!!!!!」


 おおくしゃみ。


 隣にいる、もう一人の〈鼻の高い人〉も……


「フゥァアアッックショーン!!!!!」


 仲良く、おおくしゃみ。


 そのまた隣には、〈鼻の低い人〉がいるが……


「ん? 何か変なものでも飛んでるっけ?」


 と、ケロッとしている。


 地球じゅうで、わけのわからない微粒子が、絶えず飛び交う。工場からの排気ガスや、森林伐採で進んだ砂漠の拡大による砂嵐。それらによって、人々は微細な汚染物質を吸い込むことを余儀よぎなくされている。〈白い人〉は、〈鼻の高い人〉とも呼ばれ、鼻高々だったが、鼻の高さゆえに鼻孔も大きく開いているので、より多くの汚染物質を吸い込んだ。一方で、かつては〈鼻なき人〉などと揶揄やゆされた〈黒い人〉と〈黄色い人〉は、鼻の低さゆえに鼻孔も小さく、吸い込む汚染物質の量は少なく済んだ。自慢気、得意気という意味の、「鼻低々はなひくひく」などという言葉も生まれたくらいである。そして、肺をおかされた〈鼻の高い人〉は、しばしば、早死にした。

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