第51話 鳴り響く豪雷

「グゥレイト!」


上空に飛んでいるドールを撃ち落とし、ディアッカは思わずガッツポーズを取る。


「馬鹿野郎、後ろから迫ってきてるぞ」


すぐその背後を、また別のドールが切り掛かってくる。

ディアッカを蹴り飛ばしながら、スザクが悪態をついた。


「だからって蹴ることはないだろう!」

「お前がボケッとしてるのが悪いんだ。むしろ今回のピンチを救ってやった俺に感謝の一つでも欲しいもんだがな」

「隊長! こいつを何とかしてください。敵にやられる前に味方に殺されちまう!」

「お前ら、いい加減にしないか!」


ドールはまだ無数に存在する。

しかしMSを装備したドールはA級討伐指定モンスターの如く手強かった。

劣勢を強いられるアスラ一行。

ディアッカやスザクの体力もあといつまで持つか。

バカやってられるほどの元気があればいいが、昨日からの張り込みでお互い体力はとっくに尽きているのをアスラは見逃さない。

それでも元気だと見せているのは敵に隙を与えぬためでもあった。


そこへ、周囲をつんざく轟音が鳴り響いた。

雷鳴である。

雲ひとつない青空に雷鳴。

こんなことをしでかす存在はアスラにはたった一人しか思いつかなかった。


「ようやくお出ましか」

「アスラ!」

「遅いぞ、ヨウ」


悪態をつきながらも、頼もしい援軍の到着にアスラは安堵のため息を吐いた。


「アスラ隊長、ヨウ隊現着しました」

「ああ、相変わらずの手腕だな。お前も見習ったらどうだ?」

「うるせー、こちとら飯時の襲撃だったんだぞ? まだ満足に腹に入れてないってのに」

「が、あれだけの魔法が使えるんだ。本当はそこまで食事に時間をかける必要はないんじゃないか?」


アスラの言葉の通りである。

ヨウは何かにつけて食事休憩を挟みたがるが、実際そこまでの時間を要する必要があるのか、疑問視していた。

ヨウ曰く、心のゆとりは一番大事な要素だ! とのことである。

単にサボりたいだけではないかと薄々勘付いているが、あえて束縛しないのはその膨大な魔力を世界平和のために扱って欲しいからであった。


「お手柄だな、お前達」


スザクはまるで自分の手柄が増えたみたいな態度でレイを褒めた。


「いや、オレたちはポンちゃんのサポートを受けてあの数を仕留められたんだ。オレの力だけじゃ少し厳しかったな」

「ヨウイチ殿が?」


アスラにとってヨウイチはパッとしない料理の屋台の親父だった。

なぜヨウが懐いてるかは胃袋を掴まれているからと言う認識しかない。


「あいつはずっと力を隠してるんだ。まぁあんまり明かさない理由は争いに興味がないからだけどな」

「そんな御仁が今俺たちに協力してくれる理由は何だ?」

「さっさとこんな戦い終わらせて、平和な世界にしてくれってこった」


こんな状況じゃ商売どころじゃないだろ? と肩をすくめながらヨウは答える。

全くもってその通りだな、とアスラも頷いた。


マリアの精霊ルナとGZーウォーリアを装備したレイの殲滅力は目を見張るものであった。

何といってもその命中力。

ディアッカが嫉妬するほどのものである。

MSの属性こそ【風】でありながら、相手の防御の隙をつくことで落下させるのに一役買っていた。


「でかした。あとは俺たちに任せろ!」


風属性のレイがやったのだ。攻撃が通用せぬからとあきらめるスザクではなかった。


「伊沢流抜刀術・奏波」


スザクの振るった刃は、ドールに大したダメージを与えていないように見える。

ドールは大したことないじゃないかとMSを振おうとして、なぜか腕が動かないことに気がついた。


「ゾンビと違い、お前らは神経が生きてる。付け入る隙があるとすればそこだろ」

「でかしたスザク! こいつを喰らいなぁ!」


ディアッカがMSをガトリングモードにして発射。

ドールはそれを受けてあっという間に粉微塵になった。

得意げにするディアッカに、アスラは眉間に皺を寄せた。


「バカ、魔力を使いすぎだ。ランチャーモードで対処しろといったろう!」


まだキラが見つかっていない。

前哨戦で全てを使い切ってどうすると言いたげだ。

しかしこれにはディアッカも食い下がる。


「ですが隊長、こいつらはランチャーの効きが良くありません。こいつが一番手っ取り早いんです」

「あと何体残っていると思ってるんだ!」


激怒するアスラに、ヨウが反論した。


「いや、今のがいい牽制になった。ナイスだディアッカ!」

「ほら、他の部隊の隊長は見るとこ見てくれてるんですよ」


ディアッカは、アスラの頭の硬さに辟易しているようだった。

なるべくミスをしないように、怪我をしないようにと頭ごなしに接しすぎた弊害である。

その上アスラは口下手で、本心が相手に伝わらないタイプでもあった。


「おい、あんまりウチの隊員を調子つかせるようなことをいうな」

「実際、敵の動きがまばらだったのが空に固まり始めてる」

「確かにな。だがそれは偶然そうなったという可能性もあるだろう?」

「それでも成果は成果だ。何でもかんでも怒鳴りつけるだけじゃ部下は伸びないぜ?」

「そうか。だが俺はこのやり方で行く。お前はそのやり方が正しいと思っているんだろう?」

「まぁそういうことだ。あまり扱きすぎて部下に逃げ出されないようにな」


ヨウはそう言いながら大雷撃魔法の詠唱を始めた。


「隊長、周辺地域への避難は終わりました」

「こちらも残りのドールの誘い出しを完了、いつでも行けます」

「ピースは揃ったな、これでドールは一丁上りってな!」


【極大雷撃魔法・サンダートルネード】


雷鳴が、周辺地域一帯に轟いた。



ーーーーーーーー



ピシャーン!

轟く雷鳴の中、シンとヨウイチはピッキーで降り注ぐ雷鳴をガードしながら中央を進む。


「ぴき、ぴきぴき」


ピッキーが何かを見つけたらしく、今その場所に向かっていた。

一体何を見つけたというのか。


「ああ、耳がおかしくなりそうだ」

「師匠、もう少しです。どうか我慢してください」

「わかっているさ。この程度の苦難で根を上げたりはしないよ」

「だったらよかったです。ここを左?」


そこは裏路地で、地下に繋がる階段が設けられていた。


「おや、だれかと思えば君は」

「キラ? どうしてこんなところに!」

「それは僕の質問だよ。どうしてここがわかった?」

「ピッキーが、教えてくれたんです」

「そのスライムか。本当に君とは不思議な縁があるものだね。いいだろう、君には僕の計画の礎になってもらうつもりだったんだ」

「え、嫌ですよ」

「そんな嫌がらずに、話くらい聞いてくれたっていいじゃないか」


キラは椅子から立ち上がり、何気ない動作で壁のスイッチを押した。


ガシャンと音が鳴り、扉の奥に鉄格子が嵌め込まれたように扉はびくともしなくなった。閉じ込められたのだ。


「強引な人だなぁ」

「そこの人は?」

「一回の料理人に過ぎないよ」

「まぁ、いいや。ドールをだいぶ消費しちゃったし。変わりくらいにはなるよね!」


キラは手をかざす。

しかしヨウイチは一切動じずにキラとシンを交互に見ていた。


「何だと? 僕の死霊魔術が通じない?」

「師匠、死霊魔術って何ですか?」

「さぁ、俺にはさっぱりだ。でも不思議と、さっきから俺の周りをゴーストが漂ってるんだよ。そういう系統の攻撃かもしれないぞ?」

「ああ、なるほど」

「多分な。あいにくと俺はそれを目視で捌けちまう。何かされる前に俺の目で食材に変えてしまえるんだ」

「相性最悪ですね」

「これはこれで便利なんだけどな。そうそう、ゴーストは天ぷらにすると美味いんだ。よかったらあんたもどうだ?」


ヨウイチはそういうとおもむろにオリンの中から屋台を引き出し、そのまま調理を始めてしまった。

シンもキラも、マイペースなヨウイチの料理が出来上がるまで、何も話すことなくじっと黙りこくっていた。






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