第50話 襲撃

「腕を上げたわね、シン」

「でしょ、僕いっぱい頑張ったんだから」


シゲの解体場では、マリアから腕を認められたシンが照れ笑いしているところであった。しかしキラのドールが無作為に放った一撃がシゲの解体場を襲う。

混乱に乗じて逃げるために、騒ぎを大きくするのが目的であったためだ。

だがしかし、それは未然に防がれた。


「重力魔法・グラビティ」

「ゴーレムの相・体制維持」

「切り開け、GZーウォーリア」

「ルナ、力を貸しなさい!」


瓦礫と化した解体場から、無傷で現れる6人。

仕事場をめちゃくちゃにされ、怒りに震えるシゲを除き、他五人は団欒の邪魔をされたことをひどく恨んでいた。


「誰だ、オレたちの飯を邪魔した奴は!」

「隊長! 屋根の上」


広域センサーと化したマリアの刺した先に、人影があった。

そこには特徴的なベルトスーツに、一振りの魔剣。

形状から察するにY・ストライク。

指名手配されているキラに違いない。


「マリア、あいつを追え」

「ですが隊長、マーカーが徐々に増えて!」


マリアの操るルナは同じ敵性反応をマークする機能がある。

それが急激に増えて視界いっぱいを塞いでしまった。


「おそらく、ドール」


レイは過去の情報から即座にそれが偽物であると断言した。


「しかし建物を吹っ飛ばすほどの威力を出す魔剣だぞ? 本体じゃないのか」

「わかりません。アスラ隊長と連絡が取れませんので」

「あー、ったく。飯の時間も取れないなんて。こんなんだったら魔剣部隊になんか志願するんじゃなかったな」

「わがまま言わないでくださいよ」


ヨウがマリアとレイを引き連れて、もう一人の隊長と合流するべく外に出ていく。

シンとヨウイチはとりあえず、解体場をなんとかしないと、と瓦礫の撤去作業から始めるのだった。


この戦いにシンは関係ない。

魔剣使いでもなければ、恨みも何もないからである。

確かに一度狙われはした。

でもそれは条件の一部に抵触していたから。

男を知らない女性。その血を集めていると知って、じゃあ自分もどこかで狙われるかも、と思っている程度である。

だからシゲからシンの誘拐計画が計画されていた時は驚いたものだ。

そこまで興味をまたれてるとは思いもしなかった。

そしてだからこそ、不用意に戦場に出ては場を混乱させかねない。

キラの討伐戦が、一転シンの救出作戦になる。

それだけは避けたかった。


「師匠、お連れさんは止めなくていいんですか?」

「んー?」

「あんなにいっぱいの敵に囲まれて、すごくイラついてましたけど」

「あー、それは大丈夫。なんだかんだで優秀なんだよ、あの子」

「心配はしてないんですか?」

「そりゃ心配さ。誰かに迷惑かけてないかとかさ」


心配してるのは敵対関係者? 理解が及ばずにシンは首を捻った。

そもそも見た目的には自分より強いようには見えなかったからである。

口調は自信たっぷりで、勝ち気なのは言動から受け取れていたが。

それだけでは信憑性が低い。

現にマリアも自身いっぱいだが、芯より強いかと言われたら疑問符が浮かぶほどだ。


「本当に師匠よりお強いんです?」

「これを言って信じてもらえるかわからないが」

「はい」

「魔法の力で北海道を丸々浮かせた、なんて言ったら信じるか?」

「北海道がまず何なのか」

「そこからかー」

「あいにくと無学なもので」


シンとヨウイチはほのぼのしながら瓦礫の撤去作業を始めた。

戦力には何ら申し分ない。

何だったら過剰であると思っている。


「お前ら、あいつらを手伝いに行ってやれ。もうここは十分だ」

「いや、流石にそれは」


シゲはものすごい速度で自分の解体場が片付けられていく様を見て、何だか居心地が悪くなっていた。

皆が同じ状況であるのに、自分だけがこんな待遇でいいのか? と思っている。


「流石に全部世話になるわけにはいかねぇよ。それに、今お前らを一番必要としてるのはあいつらかもしれねぇんだ。本当なら、こんな争いに子供を向かわせたくはねぇんだが」

「もう僕は子供じゃないですよ?」

「俺から見たらガキも同じだ。体ばっかでっかくなりやがって」


シゲは泣いていた。

自分の不甲斐なさに。もっと自分に力があれば、戦場に行ってやれるのに。

いざ行こうにも足が震えて動かない。

震えは、時間が経過するたびに強まる一方だ。


「ヨウイチさん、頼む」

「わかった。シン、行こう」

「いいんですか? これじゃあシゲさんはお仕事もままならないですよ」

「皆が同じ気持ちだ。シゲさんだけじゃない。俺たちはさっさと原因を取り除いて日常に帰還する。そのために少しばかり無理をする。オリン、魔眼を使う」

「ぴき!」

「師匠、その力とは?」

「少し翌日に疲れを残すが、俺のスキルが視界全土に届くチートスキルだ」

「眼精疲労程度でしたら、僕お師様から習ったポーションで回復できますよ?」


シンは肩掛けカバンから一つの薬瓶を取り出した。


「助かる。では空の敵は俺のマガンで対処する。シンはその目薬を俺に逐一投下してくれ」

「一応飲み薬ですけど」

「在庫は?」

「2000個ほど」

「すごいあるんだな」

「魔法の鞄をお師様からいただいたので」

「なるほどな」


どうりで見慣れぬ鞄をかけているわけである。




その頃別行動中のマリア達は、上空のきら達が予測不能な動きをするのを観測していた。


「隊長、上空に上がった個体が突然墜落して行っています」

「魔剣の魔力が切れた? それとも別の……」


マリアが声をあげ、レイが分析する。

しかしヨウはそれを一蹴し、援軍を即座に理解した。


「ポンちゃんめ、ここでは使わないと言った約束を破りやがったな?」

「ヨウイチさんですの?」

「ああ、あの男はここぞという時で役に立つ。でもあの通りの堅物だろ? その上で料理好き。本当ならあんまり戦場に呼びたくはねぇんだが」

「お互いに強さを認め合っていますのね」

「あいつはオレより弱いとか言ってるけど、実際は逆だからな? オレなんかポンちゃんの足元にも及ばねぇよ」

「隊長が言うんならそうなのですね」

「だからこれ以上迷惑かけねぇようにさっさと始末するぞ。レイ、電磁捕縛縄の用意だ」

「ドールには効果がないと以前」

「なぁに、こっちは魔法の本家よ。相手が抵抗してきたって、重ね掛けで貫通させてやるっての!」


この体調は一度口にしたことは必ず実行することをしっているマリア達。

そして、できないことは絶対に言わないのだ。


「でしたら、多めに用意します」

「そうしとけ。マリア、落ちたやつを回収しに行くぞ。場所を教えろ」

「ではこちらへ」


ヨウ達はドールの回収を急ぎ、混乱を収束すべく動き出した。




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