第49話 過去の因縁
シンが仲間と親睦を深めている頃。
カガリの夫であり凄腕ハンターの桂木アスラはキラの潜伏場所を見つけていた。
相棒であるヨウは少し飯を食ってくると言ったきり帰ってこない。
どうしたもんかと考え込んでいるうちに、すぐにキラは勘づいて場所を移動してしまうかもしれない。
アスラは焦っていた。
「隊長」
「スザクか。どうした?」
「ヨウの奴を待つ必要はありません。俺たちでいけます」
「ダメだ」
「どうしてです!」
白髪をおかっぱにした清楚そうな見た目にぎらつく目を内包する少年兵。
野心が高く、いつかアスラの上に立つことを夢見ている。
そんな彼は今すぐにでも突撃しましょうよとアスラに発破をかけてきた。
「やめとけ、スザク」
「ディアッカ! 貴様も俺の邪魔をするか!」
スザクとは対照的にこちらはムードメイカーで、どこか飄々としている。
褐色の肌に金髪オールバックはどこか遊び人を思わせるが、見た目に反してクレーバーで情に熱い男でもあった。
「俺はここでお前達を失いたくない。キラはそれほど危険な男なんだ」
アスラにとって、それが一番招きたくない結果である。
全滅。それなりに名を打ってきたつもりであるが、あの頃に比べて自身がどれほど差を縮められたか。
キラが今も成長を辞めてないとしたら、迂闊にとびだせないとアスラは逸る気持ちの部下を下がらせるほかない。
「また昔の思い出ですか? 言っておきますが隊長、奴はもうあなたの知ってる幼馴染ではありません。とっくに道を外して化け物になった。幼馴染ならあんた自らの手で屠ってやるのが礼儀でしょう」
「黙れ!」
図星を突かれ、アスラは大声を出してしまう。
「いいえ、黙りません。過去の英雄を少し高く見積もりすぎです。魔剣の開発者、その技術を俺たちに提供してくれた偉大な人物だってのはわかります。でも俺たちだってそれに負けないくらいに努力してきた。隊長は俺たちのことを信じられないんですか!?」
スザクの言葉はどんどん強くなる。
アスラが過去に縛られているのを見過ごせないと言わんばかりに。
それをわかっているからこそ、過去との縁を切るべくアスラはこの場所にいた。
「冷静になれ、スザク」
「俺はとっくに冷静ですよ、隊長」
「二人とも、どうやら今の騒ぎで敵に勘付かれたみたいだぜ」
「隊長、俺の言った通りです。あいつら腰抜けですよ」
慌てて出てきたのは下っ端のゾンビ兵である。
スザクはそれを見て敵はこちらの戦力に怯えていると捉えていた。
しかしアスラの見解は全く異なる。
「逃げないということは、それだけ自信があるということだ。用心はしておけ」
「無用です。あんなゾンビ兵ごとき俺のデュエルで粉微塵にしてやりますよ。穿て、デュエル」
「ガァアアアア!」
デュエルの風魔法をモノともせず、ゾンビ兵はあっという間にスザクと距離を詰めた。
「避けろ、スザク」
攻撃が通じないことに動じたスザク。
デュエルの風魔法は土魔法と相性が悪い。
なんとゾンビ兵は全身に土魔法をコーティングして突撃してきたのである。
それを解析したディアッカが叫ぶ。
土魔法には『炸裂』系統の火属性魔法が有用。
ディアッカの扱うバスターにはそれに準ずる魔法が編み込まれていた。
構えるディアッカ。
襲いかかるゾンビ兵。
スザクは腰が抜けてしまったかのように動けないところへ、アスラが間に割って入った。
スザクを救助し、ゾンビ兵の胸を足場に横方向へ脱出。
射線のひらけたゾンビ兵にバスターの火属性魔法がドテッパラに大穴を開けた。
「馬鹿野郎、スザク。あれだけ油断はするなと言ったろう」
「すいません、隊長。功を焦って」
「なんにせよ助かったんだからいいじゃねーか。スザク、お前は俺のサポートに徹しろ。ゾンビどもは俺が火葬してやんぜ」
「癪だが、俺のデュエルじゃ手に負えないのは事実か。だがディアッカ、下手は打つなよ? お前の失敗に巻き込まれるのはゴメンだ」
「お前に言われたかねーぜ」
「二人とも、下がってろ。ここは俺のセイバーで叩っ切る」
アスラの目にもう迷いはない。
群れをなすゾンビ兵を一刀両断に叩き伏せる。
フェイスの隊長の姿がそこにあった。
そこへ軽薄な拍手の音が届く。
「お見事、さすがはアスラだ。僕の部下達がゴミクズのように切られてしまった。これではまた調達しなくてはいけないね」
「キラ!」
一切の感情が乗らない、抑揚のない語りでキラはありのままの事実を述べた。
ゾンビになる前は優秀なハンターであったのだろう。
それを調達、となればそれはダンジョン内で行われる誘拐に他ならない。
もはや目的のための手段を正当化するような口ぶりに、アスラもまた感情的になってしまう。
「何さ」
「やめろ! そんなことをしたってラクスは喜ばない」
「あの時ラクスを守れなかった君がそれをいうの?」
「ぐっ」
当時、ラクスと行動を共にしていたのはアスラだった。
全幅の信頼をおいていたアスラが、途中で目を離してしまったばかりにキラの最愛の人は命を失ってしまった。
魂を失った肉体だけがダンジョンの中に置かれていた。
奇妙な死に顔だった。
まるで生きているかのような、それでいて血の気の引いた肌の色。
当然、キラは現実を受け入れられない。
その日からキラはこの世の全てに敵愾心をむけ、ラクス復活のために人生を捧げた。
文献を漁った中に、死者を生前のままの姿で復活させる禁術に辿り着く。
それがヴァンパイアのもつ死霊術だった。
なるべくなら高位の存在と契約をしたい。
そう思ったキラはその日から男を知らない女を攫い続けてきた。
全てはラクス復活のために。
アスラは、不甲斐ない自信を鍛えるために今もなおハンターを続けている。
キラと決着をつけるかどうかではない。
あの時守れなかった少女の命を救えなかった自分自身の贖罪のためであった。
「キラ! 観念しろ! お前には連続殺人及び、誘拐、麻薬取引、それ以外の多くの余罪がかけられている! ここで大人しく罪を認め、投降すれば命だけは助けてやる!」
スザクが震える声で己へ発破をかける。
「そうだね。その事実は認めよう。でも辞めないよ。僕には目的がある」
冷たい目で、キラは罪を認めた。
それでもなお、罪を重ねる宣告をして。
両手を広げる。左右に展開されたのは翼のように広がる剣。
その全てがY・ストライクだった。
合計で60本はあるだろうか。
生前は30本が限界だったそれを、特に大変そうでもなく振る舞う。
「良いことを教えてあげよう、アスラ。今の僕はドールだ」
「何?」
本体はここにいない?
ではどこに行った!
すぐに周囲を見回すアスラ。
だがそれよりも注意すべきところがあるはずだった。
「僕のドールはMSをこんなに巧みに扱える。君たちはそれを抑えられるかな?」
建物から、特徴的なベルトスーツを着た男がゾロゾロ出てくる。
総勢60人。一本ずつ魔剣を受け取って、ビルの上や路地裏に走り去っていく。
その際に建物や人々を傷つけて。
騒ぎに乗じて逃げるつもりだ。
それだけは、状況に取り残されつつあるアスラ達にもわかることだった。
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