第40話 もう一人のスライム使い
「すいません、人を探しているんですが」
「はい、ご依頼ですね。少々お待ちください」
ハンターズギルドに見慣れぬ男がふらりとやってくる。
肩には青いスライムを乗せている。
テイマーなのだろうか? しかし仕事の受注ではなく発注だと聞きシホは専用のバインダーを開き特徴を記入していく。
「まずその人のお名前を教えてください」
「藤本ヨウ」
「年齢は?」
「多分16歳」
「多分?」
「ああ、いえ自分の年齢をイマイチ明かさないやつでして」
「なるほど。それでは容姿の特徴をお教えてください」
「金髪碧眼でいいところのお嬢様で、魔法が使えます」
「失礼、あなたとその方は一体どういったご関係で?」
シホの視線が、一見して家族でも恋人でもなさそうな男に刺さる。
「飲み友達です」
「お相手は16歳ですよ!?」
「そこでは15歳から成人で、オレはもう成人だから飲んでいいの、きひひ! といってました」
「何というか、見た目の特徴から随分と変わったお方なんですね」
「毎度振り回されてますね」
「それで依頼主様のお名前をお願いします」
「本宝治ヨウイチと言います」
「珍しい苗字ですね」
「ですね、前いた場所でもこの名前は俺しかいないらしくて」
「覚えやすくていいですね」
「ああ、それと」
「他にもまだ何か?」
「探索者の登録をしたいんです」
「ハンターではなく?」
「ああ、こちらではハンターなのですね。じゃあ、それで」
おかしな人物だな、と思いつつシホはヨウイチの雇用を考える。
それなりの身なりの人物だが、どこか胡散臭さも漂わせていた。
なにせ一切の戦闘力を持ち合わせていなさそうなのだ。
「今責任者を呼んで参りますので少しお待ちください」
「はい」
しかし話は聞くので、とりあえずギルマスを呼んで見極めてもらうべくシホは呼び鈴を鳴らした。
「オメェかい。いい年してハンターなんぞになろうってのは」
「ええ、もしかしたら連れがダンジョンに迷い込んでいる可能性が極めて高いもので」
「その連れというのが?」
シホが先ほど受注を受けた創作以来の用紙を渡す。
「ええ、その子です。見知らぬ土地で一人寂しくしてるんじゃないかと。とりあえず俺もいつ痺れを切らして暴れ出さないとも限らないので心配してですね、探しに行こうかなと」
「オメェさんの歳ならもう少し人に頼むなり何なりするモンだがな」
「とんでもない跳ねっ返りなんです、その子。多分空腹を原因に周囲構わず当たり散らすタイプで」
「おい、何でそんな奴野放しにした!」
「気がついたらいなくなってたんですってば。不可抗力ですって」
「ぴき」
「お前さん、そのスライムは?」
「ああ、こいつですか? こいつはオリンです。一応うちの屋台のマスコットをしてますね」
「よくわかんねぇ奴らだな。しかし、そんな聞かん坊を保護できる実力はあると」
「俺は料理人もやってまして、中でもモンスターを捌いて飯を作ってます。その子はうちの常連なんで、飯出せば大抵おとなしくなりますね」
「餌付けか」
「そうとも言います。一品お作りしましょうか?」
「得体の知れねぇ奴からの料理をもらうのは気が引けるが、ちょうど昼時だ。小腹が空いてたところだ。ちょうどいい、ここらで披露してもらえるかい? 金はだそう」
「小銭を切らしていたところでした。助かります。どこか広い厨房はありますか? 何なら解体場でもいいですが」
「厨房ならわかるが解体場?」
「素材がでかいんですよ」
「ああ、モンスターを調理するっていってたもんな」
「そういうことです」
ギルマスは今どこの解体場が空いてたかなと台帳をめくり、一つの解体場を示した。
「ちょうどシゲのところが片付いたみたいだ。悪いがそこまで少し歩かせるがいいか?」
「場所を提供してもらうんですから当然です」
「そうかい。こっちだ、ついてきな」
受け答えをしているうちに、ギルマスはすっかりその男のことを気に入っていた。
礼儀はある。与える場所に対しての感謝の気持ちもある。
そんな男が一体どんな料理を出してくるのか楽しみで仕方なかった。
こんなお膳立てをしたのに、こじんまりとした料理が出てくるわけがないと本能で感じ取る。
「どうしたんです、ギルドマスター。今日の仕事はほとんど終わって、もうモンスターも残っちゃいませんよ」
シゲは団体でやってきた人垣から見知った顔に話しかける。その中でもとりわけ立場が偉そうな人、つまりはギルドマスターである。
「悪いなシゲ、この場所借りるぞ」
「そりゃ全然構いませんが、何をするんです?」
「新入りが飯を作ってくれるらしい」
「こんな場所で?」
「ヨウイチと言います。一応モンスター料理人ですからね、取り扱う素材がでかいんです。今回は無理を言ってこちらにご案内させていただきました」
「シゲだ。一応ここの責任者をしている。しっかしモンスター飯とはね。一体何を調理するんだ? オークとかミノタウロスか?」
「サンダードレイクです」
それを知り、的ひとつ大人になったように感じたシンは、もう空腹だけで相手を見ない料理人の心構えを備えていた。
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