第33話 オーブ製薬
「怪しい薬が出回ってる。あたしはこの薬の出所を探る依頼をギルドから受け取ったのよ」
開口一番、アスカはそんな言葉をシンに送った。
「なるほど、頑張ってください。応援してます」
シンは僕には関係ないですよね、とやんわり受け流した。
「あらやだー、いつの間にそんなに偉くなったのかしら、シンちゃんは!」
「やめてくださいよー、僕はもう一端のDランク。それに仲間もいます。いつまでもFだった頃の僕を持ち上げて恩に着せるのは」
顔を合わせるなり不機嫌になり、舌戦に次ぐ舌戦。
突如勃発したバトルにマリアもレイも唖然としていた。
「知っているわよ、鷹月マリアちゃんに鉄亜レイちゃんよね? いつもうちのシンが世話になっているわね。あたしはこの子の保護者をしている神薙アスカよ、よろしくね」
「ちょっと、僕のチームメイトの情報をどこで調べたのさ!」
「ギルドに聞いたら教えてくれたわよー?」
「プライバシー保護法はどうなってるのさ!」
「Sランク様の特権をなめないことね。シンちゃんに拒否権はないのよ? きりきり働くことね」
「くっそー」
有無も言わせないその口調に、噂とは別人なのだと嫌でも思い知るマリアにレイ。
シンだけはこうなるとわかっていたのか先ほどから不機嫌そうだった。
「意外だわ、シンにもこんな一面があったのね」
「あら、この子は普段どんな感じなのー?」
教えて教えて、とアスカは興味津々で聞いてくる。
その距離感の近さに戸惑いつつも、マリアは普段のシンの情報を並べた。
「へぇー、一丁前にリーダーシップ取ってるんだ? あの孤高のシンちゃんがね? うぷぷー、受ける」
「だからこの人には知られたくなかったんだ!」
頭を掻きむしって呻くシン。
普段の冷静さとは打って変わって激情を見せる。
それほどまでに相性が悪いのかと思わせるが、実は真逆で。
「シン、この薬は主にどこで扱われてるか知っているわね? その背景なんかも教えてちょうだい」
「ダンジョンの中。それも行き止まり、引き返すには販売員に背中を見せる格好になる。一時的な能力を得る代わりに後ろめたい気持ちを引き出し、さらには周囲にこの力を奪わせないと視野狭窄に陥れさせる。上手いやり方だ。犯罪をするのにはもってこいだね」
「さすがシン。そこまで掴んでいるのね。でも踏み込まなかった理由は?」
「僕たちに実害が出ていない。そして背後にいる組織が不透明すぎる。下手にこの件に首を突っ込んで身の危険を晒すのはバカのやることだよ。それに、ここには踏み込むべきじゃないと直感が囁くのさ」
「パーフェクトよ、シン。実体験が活きてるわね」
「誰かさんのおかげで死ぬほど味わったからね。で、姉ちゃんは僕を動かしてまで何を知りたいのさ」
「この事件、結構でかい企業が動いてるわよ。シンはオーブ製薬は知ってるかしら」
「そりゃ、まぁ。ポーションなんかの販売会社でしょ? ハンターやってたら知らない人はいないくらいお世話になってるじゃんか」
「どうもそことヤマト商会が手を組んで開発した新薬があるの。オーブはそれを復活の薬と呼んでいるわ」
実にするすると考察が進む。お互いに認め合っているからこそ気に食わない一面があるのかもしれない。
しかし復活の薬ときた。
もしそんな薬があったなら、人々は殺到するだろう。
しかしアスカが言い淀んだのが気になった。
カマをかけるつもりで質問を重ねる。
「死者が蘇生する薬?」
「そうとも取れるけど実際は違うわね。それは一時的に死者をグールにして壁にする劇薬よ。要は死者を操る薬なの」
「仲間だった人をグールにしてまで壁に?」
「上位ハンターにはそういう人が多いのよ。価値があるので自分でその仲間じゃないって」
「Sランクってどいつもこいつもクソなんだね」
「あらー、シンちゃん。それはあたしもクソだって言ってるのかなー?」
「もちろんだよ。もしかして都合の悪いことは聞こえない耳をしてるのかなー?」
認め合っているからこそ、その本性が気に食わない。
売り言葉に買い言葉で、出会って数分で取っ組み合いの喧嘩をするまで発展した。
「言ったなガキ、今度は血のしょんべん流すだけじゃすまねぇぞ!」
「へん、いつまでも自分を上位者と思い上がってられる環境でよかったね? 僕が本気出したら姉ちゃんなんてコテンパンだよ?」
「上等だよ、いい加減白黒つけてやろうか?」
「望むところだ!」
「ちょっと、シン。落ち着きなさい」
「やめてください、プロ。子供の可愛いイタズラじゃないですか」
縋るマリアにレイ。しかし振り返った須賀は背後に般若を背負っていて。
「レイちゃんと言ったかしら?」
「は、はい」
「あたしはね、こういうクソ生意気なガキを矯正するのが生き甲斐なの。邪魔しないでちょうだい!」
「ヒェッ」
一度始まったら止められない。そんな覚悟を強いられるレイだったが。
「おい、こんなところでおっ始めんな! やるんなら外でやれ、バカもんが!」
ギルドマスターの掛け声でぴたりと止まる。
「シンちゃん、外行こうか」
「だね。マリアとレイも外行くよ」
「う、うん」
「わかったわ」
言われるがままに外へ。
そしてそこからは小声での会話が続く。
「あたし達をつけてる奴がいる。シンは気づいてて泳がせたでしょ?」
「あれってわざと暴れて炙り出したんじゃないの?」
「偶然よ」
「姉ちゃんていつもそれだよね」
先程までの喧嘩腰をひそめ、アスカとシンは自分たちにマークがつけられたことを考察し合う。マリアとレイはあの騒動そのものが誘導だったことを読み取れずに、二人の凄さをまざまざと見せつけられるのだった。
イメージとは異なるが、凄腕なのは間違いないと評価を改めるのだった。
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