第32話 アスカとの再会

「シン、あのハンター、またあの薬宣伝してる」

「また?」


ここ最近、何か怪しい薬がハンターの間で流行っている。

普通ならギルドが製薬会社から請け負って宣伝するものだが、この薬の怪しいところはギルドがこの薬品に一切絡んでないことだった。

ある意味で非合法とも呼べる薬品を扱って、補導されても嫌なのでシン達は買ってない。


「でも効果はいいって噂は聞くよ?」


お値段は結構するみたいだけど、と付け足すレイ。

曰く、一時的に筋力が増す。

曰く風のように早く走れる。

要はドーピング薬品なのだ。


スライムに食べさせた分だけ能力を得るタイプのシンや、遠距離攻撃をメインにしているマリアやレイにはピンとこない。

それに一度それで上手い思いをしたら、依存してしまうのではないかという怖さがある。


「僕たちは必要ないかな? 最終的に目的があの薬品を買うのにすげ変わりそうで怖い」

「それもあるわね」

「私たちにはピッキーちゃんに美味しいご飯を食べさせる目的がありますから!」


そのために強くなってお金を稼ぐんだ、とレイは笑った。

その日、三人はいつも通りの仕事を終えた。


しかし、筋力とスピードに異常をきたしたハンターが増えたことにより、今まで通りの仕事を扱えなくなっていく。


「ごめんなさい、シン君。その仕事は他のチームが全部片付けてしまって」

「全部!?」


シホが申し訳なさそうにお辞儀をする。

メインにしている塩漬け系の依頼はシン達の生命線にもなっていた。

よもやそんな依頼にまでドーピングハンターが手を伸ばしているなど思っても見なかった。


「なんだか最近体の調子がいいと、塩漬け依頼をあらかた片付けていくのよ。ギルドとしては助かるけど、その人達の体調が心配になるくらい顔色が悪いの。でも仕事はキチっとするのよね」

「だからギルドとしても注意はできない?」

「依頼主からも特にクレームも来てないものね。でも心配の声は上がってるわ。もうちょっと割り振る仕事をおさえたらどうかって」


それくらい見ていて心配なのだそうだ。


「ギルドとしては本人の希望を通す感じだもんね」

「そうなのよ、本人のやる気で仕事を割り振るから。そこを責められると弱いわね」


ギルドでそんなやりとりをしつつ、シン達はギルドを後にした。

ダンジョンでも、怪しい薬の販売員を見かけた。

前見かけた時よりも、随分と値段が釣り上がっている。

供給に対して需要が上回ったのだろう。

購入者の足元を見た値段設定になっていた。


そんなわけで購入者と販売員の喧嘩がそこかしこで起こっていた。


「なんか空気悪いわね」

「わざわざダンジョン内で販売してるのも怪しいといえば怪しいわよね」

「前のこともあるし、もしもの時はうやむやにする気なのかもね」

「あー」


三人には思い当たる節がありすぎた。

薬の販売員は、即座にその薬を使えるというメリットがある。

対して購入者は薬効が切れてフラフラだ。

どちらに勝ちの目があるかは火を見るより明らかだった。

購入者は販売員に言われるがままにお金を支払って薬を購入した。


「ああはなりたくないわね」

「目の前の餌に飛びついた結果があれなのは、僕たちも気をつけたいところだよね」

「そうだね」


人の振り見て我が振り直せ。そんな諺がある。

シンはその手の格言には疎かったが、マリアが手本になってシンに教えた。

教養など何もないシンは「ふーん、そうなんだ」と頷いた。

適当に頷いておけばやり過ごせると覚えたのだ。

マリアは教養を自慢するときだけ得意気だった。


そんな日常が数日過ぎて。

今まで一切引き受けられなかった依頼が急遽受けられるようになった。

聞いてみれば、今まで独り占めしていた人は上位のランクに上がったらしい。

しかしそれ以降連絡が取れず、どこで何をしているかもわからないそうだ。


謎が残る失踪。

そしていまだに怪しい薬は出回っている。

ハンター達はその薬が出回っている地域を調べ上げてはその薬効の効果に酔いしれていた。


その一連の事件を調べに、アスカが再びシンの前に現れることになった。


「はぁい、シン。元気してた?」

「ウゲェ!」


久しぶりの再会に、シンは過去のトラウマを思い出した。

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