第31話 約束のランチ
シン達がDランクに上がり、一週間が過ぎた。
今日はピッキーにご馳走を振る舞う約束の日である。
翌日じゃなく一週間後に設定したのは、それまでに稼いでそこからお金を出させる算段だった。
貧乏なシン達がその時に出せる食事なんてたかが知れてるので、可能な限り目標を設けて稼がせた結果、結構な金額(シン換算)が集まった。
しかし雑食なピッキーの好物なんてシンもいまいちわかってない。
「シン、ピッキーってどんな食べ物を喜ぶかしら?」
「なんでもいいよ。最近は人間の食べ物に興味を示してるかな? 僕もたまに屋台の串焼き買ってあげてるし」
その場合、ほとんどがシンの主食でピッキーの分は串も含めた残りだった。
それに対抗したらなんだってご褒美になるもんだが、その真実を隠したままマリア達に告げた。
シンは生まれながらに貧乏でグルメに対してそこまで強いこだわりはなかった。
しかし生粋のお嬢様であるマリアに、成り上がりだが一般人よりもいいものを口にしてきたレイは何を食べさせようか真剣に悩んでいた。
「クレープ、はどうでしょう?」
「それってどういうの?」
「生地を薄く焼き上げて。生クリームや果実をトッピングした食べ物ですよ」
「ピッキー、知ってる?」
「ぴき?」
今までろくに食べさせてこない上にシンが知らないものをピッキーが知ってるはずもなく。
「じゃあ今週はそれで」
「本当にいいの?」
毎回それなら楽だな、という感情がマリアに募る。
「今週はそれで、次はもっと美味しいものをご馳走してくれるんだよね?」
シンの微笑みでマリアは全てを察する。
そうだ、奢るのはこの一回限りじゃない。
なんだったらここで下限を決める、一番重要な状況でもあった。
ここから先、値段は上がる一方である。
クレープは一つ300円くらいで買える。
バリエーションを考えれば、価格は上がっていくが、最安値はそこだった。
シンプルに皮とクリームを挟んだもの。
そこにトッピング料金が加算で一つの値段となる。
バリエーションなどそんなものだ。
「ええ、じゃあそれぞれ美味しいと思ったお店にいきましょうか」
「それぞれ? 一緒じゃないの」
「それじゃあ、贖罪にならないもの。各自でいいわよ、ね?」
「私もそれでいいですよ」
マリアの狙いにレイも気づいたか、それぞれがいかに安くピッキーを満足させるかのために動き出す。
なんにせよ、それでシンも得をするのでどっちでもよかった。
先行はマリアから。
そこはフルーツパーラー。お店の中で食事をするのなんて初めてなシンには、随分と居心地が悪いと感じた。
普段好き好んでボロを纏うのは、それしか着るものがないわけじゃない。
普通にそその格好に慣れてるからだけで、シンにはアスカにもらった真っ白なワンイースがあった。もちろんそれはいまだに保管してあるし、ピッキーに擬態してもらうこともできた。
「僕、ここに居ても大丈夫かな、浮いてない?」
店内の客層はマリアクラスで、自分が場違いなんじゃないかと思うシンだったが、平然と胸を張るマリアに、特に動じることのないレイを見て、なんとか平常心を保っていた。
「ぴき!」
「ピッキーは落ち着いてていいなー。羨ましい」
心臓を持たないピッキーは特に動じることもせず、そんなピッキーを羨ましがるシン。そこへ、見上げるほどの器を持った店員が現れた。
「お待たせしました。こちらチャレンジメニューのデラックスギガパフェとなります。制限時間は30分。食べきれたら無料、食べきれなかった代金は10000円となります。それぞれよろしいですか?」
「ええ、構わないわ」
マリアは特に動じることもなく言い切る。
そこでレイは全てを察する。
一見してお高いメニューで覚悟を示したかと思いきや、本命は完食すれば無料のこのメニューだったか!
真っ当に安くて美味しいメニューを考えていたレイが「こいつ、やりやがった!」という顔でマリアを睨んでいる。
「どうかしたの、レイ?」
「そっちがそのつもりなら、こちらも考えを改める必要があるって思っただけだよ」
「どうしたの、二人とも、食べないの?」
視線の先で火花を散らす二人をよそに、シンはピッキーと一緒にパフェを食べ勧めていた。
シンのあどけない呼びかけに、薄汚い駆け引きをしていたことを猛省したマリアとレイは、今日の食事はこれで済ませるという覚悟を見せながらパフェに食いついた。
なんだかんだそれだけでお腹いっぱいになった二人。
残りはピッキーに食べてもらうんなら安くついたかな?
と思うのであった。
レイ担当の2件目は真っ当に屋台飯を選択した。
どうせ食べるのはピッキーだし、という気持ちで側から見ていて和むものをチョイス。たこ焼きとお好み焼き。
込み込みで1000円と高くついたが、稼ぎに対しては割と安く抑えられた。
なぜかシンも一緒になって喜んでいたのが不思議だと感じるレイだった。
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