第30話 これからの歩み方
罪の意識、という強い絆のおかげでマリア達は誰もが必死に自分の役割を果たす。
今まではどこかシンに頼り切った戦闘をしてきた二人だが、ここに来て謎のコンビネーションを見せていた。
もうシンがわざわざ守らなくてもいいくらいには成長している。
その元となるのが月に一度しか使えないという『精霊ルナ』によるものだと言われて妙にしっくりきた。
マリアがひた隠しにしてきた実家の切り札なのだそうだ。
そりゃ月に一度しか使えないなら、そう頻繁に使えない。
そしてこれだけ優秀だと、仲間としては毎回頼りたくなる。
「まるでピッキーみたいだね、そのルナって精霊」
「融通は聞かないけどね、性能はダントツよ」
「私にはどっちもすごいと思う。羨ましい」
「他人のものは羨ましいと思うもんさ。僕からしたらレイの拳銃の命中制度を羨ましく思うよ? ほら、僕ってノーコンだから投擲の類には頼ったことがない」
シンは適当に石を拾い投げる。真っ直ぐに投げるフォームから、それは明後日の方向に投げ出された。そして飛距離は悲しいほどに短い。
もしこれが命懸けの状況だった場合、真っ先に標的にされるのは確定だ。
実際そうなったので二度とこれには頼らないと決めているシンである。
「なんていうか、ごめん」
「あたしはレイの素直なところを羨ましく思うわね」
「そうなんだ?」
わがままを通そうとするマリアは、別に好き好んでこんな性格なわけじゃないと受けてきた教育を語る。それは誰にも負けない経営者としての教育だった。
いつでも一番で、誰かに負けそうになったら必死に勉強をする。
全員がライバルで、学生時代に友達の一人もいなかった。
主にルナを使った影響が大きいそうだ。
自分の会社を大きくするためのパーツにならない人とはお付き合いするな、そう父親言われてきたのだ。その結果、会社を潰した父親は行方不明ときている。
マリアとしては青春時代を捧げた生活が無に帰したのもあってやりきれないんだろう。
「人に歴史ありってやつだね」
「シンは?」
「あいにくと人に語れる様なご立派な人生は歩んできてないよ」
それでも聞きたいというので語る。
マリアは自分ばかり話して悔しいという感情から。
レイに至っては興味本位だ。そこに強さの秘訣があるんならと耳を傾け、後悔する。
アスカに出会う前、出会った後。
共に想像を絶するものだったからだ。
「そっか、ごめんね。あのとき」
「僕が強い人間だって話?」
「うん……」
マリアを救い出すとき、レイはシンの冷静さに怖さを感じていた。
だがそこにあったのはどうやってこの状況を切り抜けようか、それこそ身を削る様な葛藤があったのだと知って、シンも自分と同じなんだとレイは思い知る。
「だからさ、こんな落ちこぼれの僕らでもハンターでやっていけるんだってみんなに見せつけてやろうよ」
課題の全てをクリアして、晴れやかな気持ちでシンは誘う。
どこかで命を狙われていても、これからやることは変わらない。
自由を謳歌する。
そして生きていくためのお金を稼いで、身の丈にあった食事をする。
三人の願いはブレない。
この日からより強固に、お互いを頼り切らない道を歩む様になった。
「おめでとう、君たちが一番乗りだよ」
「なんでか途中棄権が多くてな、連絡のつかない教官も複数と来たものだ。ギルドとの連絡もつかないし、おかしなことばかりが起こるんだよ」
課題を提出して、受け取った教官達は今回の試験は奇妙だと語る。
「課題が難しかったとかですかね?」
「わからんが、ここまで早い時間で成果を提出した君たちは、問題なくDに上がれることだろうというお墨付きはあげられるね」
「ワッ」
シン達の強張った表情が一気に緩んだ。
後から遅れて続々と、妙にボロボロな格好のハンター達がやってくる。
実際にモンスターに追わされた傷かもしれない。
しかし中にはマリアとレイが『犯人』都特定したハンター達も混ざっていて。
これからも付け狙われるのは確定していた。
ただ、それが金銭でのやり取りだった場合。
今後仲間になる可能性もあるからと、今度は稼いで雇おうという二人の考えもあった。
シンからしてみれば、こちらに危害を与えてきて悪びれないやつとは一生仲良くなれそうだなという気持ちであったが、二人が気にしないというならまぁいいかと納得した。いざという時はピッキーに頼もうなんて思いながら、シンは仲間と一緒にダンジョンの外に帰った。
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