最弱テイマーの一般ご飯

第29話 贖罪

「なるほど、そんな経緯があったんだ」


突然横にいたキラの肩が爆ぜたので何事かと思ったとシンが、駆け寄ってきたマリアと合流途中で倒れてしまったレイから話を聞いて納得する。


「よかった、キラに負けてなくて」

「勝負は割とあっさり片付いたんだ」

「そうだったの?」

「勝負の鍵はいつだって油断にある。僕が子供だからと本気を出さなかった。それがあの人の敗因だね」


シンは自分がスライム人間だという事実を語らずに説明した。

マリア達はシンが無事ならそれでいいと戦闘のことについては詳しく聞かなかった。


「それで、この人どうしようか?」


すぐ横にはキラだったものが捨て置かれている。

偶然を装って始末したのは誰の目にも明らかで、マリア達には動機があった。

この事実が表に上がれば、真っ先に疑われるのはシンのチームである。


そうならないためにシンは動いていたのだが、自らの先走った行動がこんな最悪の形に繋がるとは思わなかったマリアは、どうしようかと視線を泳がせた先で一つの物体に行き着いた。

ピッキーである。

マリアに見つめられても動じずに、真っ黒な体をプルプル振るわせていた。


「ねぇ、シン」

「何かな?」

「ピッキーってモンスターでもなんでも食べるのよね?」

「まぁ、そういう仕事をしてるからね。消化できないのは論外っていうか」

「じゃあ、人間の死体くらいわけないわよね」


本気で言ってる?

シンは聞き返す様にマリアに問い返す。


「ねぇ、僕に殺しの片棒担げって言ってない、それ?」

「お願ーい、シン! あたし達この歳でお縄につきたくないのー」

「ごめんね、シンさん。私が先走ったばかりに」


二人してシンに縋り付いて泣きじゃくる

男はいつだって女の涙に弱いが、あいにくと同性のシンには通用しなかった。


「はいはい、落ち着いて。死体の処分についてはわかった。でも、トドメを刺したのは君たちだからね? そこは間違えないようにしようね?」


シンはやんわりと自分が主犯じゃないことをマリア達に伝える。

レイが仕留めたのはピッキーが擬態していたという事実は伝えなくても良さそうだ。

もしこれが明るみになれば、ピッキーは人喰いモンスターとして処罰されることになる。それはシンが望むべき結末じゃない。


それに、二人して罪の意識に駆られてくれるなら、ピッキーが悪者になる未来はなさそうだ。シンは頷、二人の肩を組んで交互に顔を見つめる。


「これからは僕たちは共犯だ。あんまり外に言いふらさない様にしないとね? それと、あんまりピッキーに汚れ役を押し付けないように。マリアのホークだってそういう仕事ばかり押し付けられたら嫌でしょ?」

「うん、もう言わないから、ごめんなさい。ピッキーもごめんね? 次はきちんとするからね」

「ぴき!」


ピッキーは仕方ないなぁというふうにモゾモゾ動いて、分体で作ったキラの死体を捕食した。それでこの事件はおしまい。

その場には何も残されておらず、三人は安堵して話を戻す。


「じゃあ、試験が終わったらピッキーに美味しいご飯をご馳走すること」

「ピッキーに?」

「そうだよ。ピッキーは分類的に雑食、なんでも食べるけど味覚はあるんだ」


その味覚はシンと直接繋がっているので、シンにもまたご褒美になる。

これからも軽率に死体処理を押し付けては困ってしまうので、それなりの枷をはめることにした。


「ちなみに、1回目より2回目の方がよりグレードの高いご馳走にすること。今はまだ稼ぎが少ないから仕方ないけど、いっぱい稼げる様になってからも安いランチで済ませるのは無しだよ?」

「それって一回につき一度って意味合い?」

「ない言ってるのさ、この一回につき毎週だよ。たったランチ一回奢っただけで消える罪じゃないでしょ?」

「そんな……」

「マリアさん、私たちもこの罪に向き合う必要があるってシンさんはそういってくれてるんだよ。死体がなくなって終わりじゃないって言ってくれてるの。ピッキーにご馳走を食べさせるときに、それとなく思い出せって言ってくれてるんだよね?」

「そうなの?」

「違うよ、ピッキーを道具として使うな、仲間として扱えって言ってるんだ」


シンはこの話はこれでおしまいと手を叩き、試験の話を切り出した。

マリア達の話によれば、試験の教官のほとんどがキラと連絡を取り合っていたという。そこで捕獲ターゲットのマリアとレイの能力も割れてたみたいだ。


「ここで素知らぬ顔で参加してやったら向こうはどう思うだろうね?」

「普通にキラと連絡を取ろうと、あ!」

「キラは私たちで倒してしまっています」

「これがもし命令でなく、賃金でのやり取りだった場合、相手の意識は僕たちじゃなくキラに向くよね?」

「シンは何が言いたいの?」

「誰も僕たちにかまってられなくなる。それって僕たちにとって結構なアドバンテージになるんじゃないかな?」

「つまりシンさんは、こんな目にあってもまだ試験を諦めてないってこと?」


シンは内心で「自分から首突っ込んでおいてよくもまぁそんな言葉が出るね」と喉まで出かけたが黙って頷く。


「せっかくのチャンスを、こんなことで諦めるのはもったいなくない?」


試験には少なくない参加費用が支払われている。

貧乏であるシン達にとって、この金額をもう一度稼ぐとなったらそれこそ二週間は時間を要する。切り詰めてなお、その時間だ。

だったらこの機会にランクアップしてしまった方が依頼の実入が良くなるんじゃないか?

そう答えた。


「盲点だったわ」

「シンさん、そこまで考えていたんですね」

「成り行きだけどね。追い風は有効活用しないとさ」

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