第28話 レイの覚悟
マリア達は順調にマークしたキラの一味を討伐していった。
「これであらかたかしら?」
「ルナの索敵にはもういないみたい。それにしてもすごいね、この力」
「月に一回しか使えないんだけどね」
「そこまで万能じゃないんだ」
「だから秘匿なのよ。もう守るべき会社も無くなっちゃったんだけどね」
「悲しいね」
「だからって負けてられないわよ。全部奪ったキラのやつには絶対痛い目に合わせてやるんだから!」
マリアはその復讐心だけで生きている。
レイはそこまでの気概は持てない。
もともと成り上がり企業で、会社を大きくしてから家族と一緒に過ごす時間が持てないのを疎ましく思っていた。
お金を得てから姉妹の溝も増えていき、競争社会に巻き込まれてほとんどが一家離散状態。レイとしては以前の貧乏でも仲良く支え合う家族に戻りたかったのだが、そうならないままに両親は帰らぬ人になった。
キラのヤマト紹介と業務提携してから仕事に忙殺され、そのままぽっくり言ってしまった。幼い姉妹は利権争いに走り、レイは遺産を放棄して今に至る。
これ以上過去の思い出を汚さないでほしいという思いでいっぱいだった。
だから食いっぱぐれたわけだが、レイとしては自分が我慢してみんなが飢えを凌げるんならそれでよかったのだ。
なのでマリアの気概を聞いて、自分とは違うんだと薄々思う。
キラには家族を引き裂かれた恨みがあった。
でもレイは会社を復興させようと気概はなかった。
そこの差を歯痒く思った。
自分はこのままこのチームにお世話になってもいいのだろうか?
そんな気の迷いを抱いたまま、シンの姿を発見した。
キラと一緒に歩いている。
「捕まった!?」
「どうしよう、レイ」
キラと業務提携した会社は数多く。
しかしその会社のほとんどが上場する前に消息を絶った。
まるで販売ルートだけ奪い去られて、それ以外の従業員をゴミの様に始末していたキラ。レイの両親もまた、そのうちの一つだった。
「ああ、行っちゃう! レイ、追いかけるわよ」
葛藤があった。
自分に自信のないレイを引き取ってくれたのは同年代の、自分よりもお金に困ってる女の子。その子はなんでも知っていて、知識だけでなく技術もあって。
そんな子が、自分たちを庇って強敵に攫われてしまったあの子が。
このまま見過ごせばキラに人生を滅茶苦茶にされてしまう。
それだけは何があっても許せなかった。
代わりになれるのなら自分が代わりになってやりたい。
けど違うのだ、向こうの狙いは自分たちで、シンはそれに巻き込まれた形。
自分たちの不甲斐なさが仲間に照準をつけさせた。
「狙うよ」
「レイ?」
「ここでキラを始末する。マリアさん、ルナをもう一度おねがい」
「わかった」
普段あまり自分から言葉を発しないレイからの言葉を受けて、マリアも頷き言われた通りにルナを展開する。
「くっ、近い!」
視野を最大限広めても、キラとシンの距離は近すぎた。
シンは手枷をはめられてキラの一歩後ろを歩いている。
まるで一つの個体みたいに、手と手がくっついていると錯覚する。
ここで撃てばキラだけじゃなくシンも傷つけてしまう。
どうする?
殺してやりたいキラと、絶対に傷つけたくないシン。
葛藤の中で、ついにそれは解き放たれた。
狙ったのは肩。
シンならば、一瞬の隙をついて抜け出すこともできるだろうと信頼がその照準を合わせる。
「ヒット!」
「シン!」
駆け出すマリア。
シンは突然倒れたキラに驚いて、なぜかあたふたしている。
よかった、シンは無事で。
助けられた、自分の力で。
安堵したのか、レイはその場で腰を抜かしてしまった。
遠くから駆けつけてくる仲間の声に、なんとか意識を保つも無事な顔を見て精も紺も尽き果てた様にレイは眠りについた。
目が覚めるまで、小休止した。
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