第27話 コピー人格
都内の一フロアにて、複数のケーブルに繋がれたカプセルから一人の男が起き上がる。
「キラ様、お目覚めですか?」
駆け寄ったのは顔が全く同じだが性別の異なる個体だった。
識別ナンバー:カガリである。
「ああ、どうやらダンジョンに向けた一体がやられたようだ。計算違いだよ、よもやあんな存在が生まれていたなんて」
「キラ様、どうなさいますか?」
「捨て置いていい。あの令嬢達も、今は放っておこう」
「よろしいのですか? あんなにご執心されていたというのに」
「何にでも準備というものはあるさ。それとコピーの性格もね、少し調整を入れておくとしよう」
「何か問題がありましたか?」
「どうにも性格が著しく破綻しているようだ。あれの調整を行ったのは誰だったかな?」
「確かカズイ課長だったかと」
「そうか、残念だけど彼には減給処分を伝えなかればいけないかな。いつ僕があんな性格破綻な言動をとったのか、今一度問い詰めたい限りだよ」
減給した上で問い詰めるのか。
カガリは不憫そうに上司の顔を思い出しザマァ、嘲笑した。
そのカズイという男。もとよりキラの研究には否定的であった。
学生時代の付き合いというだけで共同開発者を名乗っていたところを捕まえて手元に置いているのだが、これがまぁ有る事無い事世間に吹聴するタイプなのだ。
今回の調整も普段からしてるキラに対するやっかみの集大成とばかりに人格攻撃をしたのである。
「いっそ、クビにしてはいかがです?」
「あれは表に出したら出したで面倒な男だよ」
「でしたらサイの様に従順な人形にするのはどうでしょう?」
「それはそれでつまらないからね」
「キラ!」
裸同然のキラに駆け寄って微笑む女性が現れる。
「フレイ。こんな姿でごめんね」
「どんな姿だってキラはキラよ。お仕事はもう終わった? あたし、欲しいものがあるの」
「なんだろう? 僕のできることでよければ可能な限り答えたいな?」
「じゃあ、あたしキラの子供が欲しいわ」
「おいおい、もう三人もいるのにまだ生む気かい?」
「優秀なキラの子供は何人だって欲しいのよ」
まるでそれがブランドもののバッグであるかのように、数を揃えれば自分のステータスが上がると勘違いした顔でキラに詰め寄る有様だ。
「奥様、その辺で。社長は今職務中です」
「うるさいわね、人形のくせに! あたしの旦那に色目を使わないでちょうだい!」
「フレイ、落ち着いて」
「キラもキラよ! あたしという女がいながらこんな紛い物で慰めて! もっとあたしを頼ってちょうだい!」
フレイはキラが成り上がるために利用した財閥の娘だった。
しかしその破綻した性格により、助手にするにはあまりにも不向き。
なのでかがりの様な自分の人格をベースにした共同助手を構築したのだが。
フレイはそれが気に入らないとカガリをことあるごとに責めたのだ。
フレイにとっても、キラは魅力的な男だった。
生み出す技術はどれも大金を産む。
このダンジョン社会において、キラの様な科学者を取り込んだ組織が急成長するのだ。
そのための大金を支払っているんだから、キラはもっと自分に尽くすべき。
そう考えての行動である。
つまりは打算だ。今後自分がより輝くためのステータスとしか見ていないのである。
キラはそういう付き合いを何よりも嫌った。
お互いを踏み台としか思ってない夫婦の会話がこれである。
世も末とはこの夫婦のためにある言葉かもしれない。
「さて、あの子をどうやって研究に取り込もうか。楽しみだなぁ」
キラはそんなことを考えながらフレイの相手を自分のコピー体にさせた。
本体は全く別の研究所にある。
「まさか僕とおんなじモンスターに肉体を捧げるのを躊躇しない存在がいるだなんて」
思っても見なかった。
そう言いながら自分のコピーの首にかぶりつき、鮮血で喉を潤した。
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