第25話 望んだ『異端』
「よかったのですか? 合流しなくて。助けに来たのでしょう?」
余裕の態度を崩さないキラ。
まだ何か秘策を隠しているのだろう。
懐から試験管を取り出し、魔剣に装填していく。
「別に。たまたま一緒に行動する機会があっただけだよ」
「他人というわけですか」
「僕とあなたも他人だよ。それ以上の感情は湧かないかな」
「しかしこの姿を見られた以上、返すわけにはいかないんだよねぇ」
「そりゃ残念」
先に動き出したのはキラだった。
魔剣の刀身はキラの手元で分解して、空中に浮遊する。
手には柄だけが残っている状態だ。
「いけ、ドラグーン」
意思を持った魚の様に剣の破片空中を泳いでシンに向かう。
「面白いね! そう来なくっちゃ」
シンはニンマリと笑い、エンペラーコボルトを宿した右手を構える。
「【コボルトの相】ハウリング!」
コボルトの咆哮が、ドラグーンを叩き落とす。
これは音波による攻撃だ。
意思ある存在を萎縮させ、弱者を従える強者の咆哮。
しかしドラグーンは叩き落とされながらもシンに向かうのをやめない。
「これでも足りないか。ならばピッキー【ゴーレムの相】だ」
「ぴきき!」
シンは左手をゲル化させ、そこにゴーレムを生み出していた。
「なんですか、あなたは!」
「さぁ、なんだろうね? 師匠は僕の様なやつは見たことがないって言ってた、よ!」
ゴーレムの相・インパクト。
広げた左手に宿るのは巨大な岩の腕。
まるで落石が如く地を這いずるドラグーンを完膚なきまでに叩き潰す、圧倒的な攻撃手段。
右手のコボルトで牽制しながらも、シンはさらに攻撃を重ねていく。
両手を異形化させながら、次は下半身を肥大化させた。
「ピッキー【スライム】の相だ!」
「ぴき!」
下半身を丸々スライムに変貌させたシン。
そのクリーチャーっぷりにキラも開いた口が塞がらないでいる。
「わかりましたよ、あなた! どこかの研究所の被験者でしょう? 逃げ出した先でお嬢様と出会った。その恩義を果たすべく、ここで私の足止めをしている。違いますか?」
「残念、ハズレ。僕は自分で肉体を捧げた上でピッキーと契約したんだよね。僕に力をくれって。だからこれは僕の意思。どこかの誰かに無理やり研究されたとかじゃないよ?」
「狂ってる!」
「その言葉は褒め言葉かな? うちの師匠曰く。ハンターというのは狂っていながらも正気を保ってられるやつが勝者だって言ってた」
「こんな、私はこんなところで破れる存在では!」
「安易に藪を突いたのは失敗だったね。獲物を前に舌なめずりしちゃったかな? 何かの計画の最終段階の様な口ぶりだったけど、僕に出会ったのがあなたの敗因だよ!」
「バカな! そんなバカなー!」
ハウリングによって身動きを封じられ、ゴーレムのプレスでその肉体を全身骨折させられた。あれでは生き残るのは難しいだろう。
叩き潰す際、下半身をスライムにしたのはプレスの威力を上げる為だった。
人の背丈じゃどうしたってゴーレムを持ち上げるのは不可能だから。
シンなりの考えである。
「さて、これはどうしようかな」
「ぴき」
「え? ピッキーほしいの?」
「ぴき!」
「何か案があるんだね。じゃあ任せようかな?」
「ぴきき」
そう言って、ピッキーはキラの肉体を丸々取り込んで消化した。
シンの口の中になんとも言えない味わいが広がっていく。
「マッズイ」
「ぴききー」
ピッキーは鳴き声を上げながら醤油マヨネーズ味を加算した。
「あ、これならギリいけるね」
初めて食べた他人の肉の味に困惑しながらも、獲得したスキルに納得した。
まさか一人目からそれなりのスキルを獲得できるとは思わなかったと、食事後の運動をしにダンジョンの入り口に向かう。
ピッキーから生み出されたキラを連れて。
ただその顔は、あまりにも無表情で見る人が見ればわかるおぼつかなさを併せ持っていた。
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