第23話 行き当たりばったり

「ん? どうしました?」


キラの胸元のバッジに振動が走る。

それは魔石研究で得た新たな科学の結晶だった。


魔石に魔力を流すと微量な振動を発する。

それも用いた信号方法を確立していたキラは、これを新たな通信手段に用いていた。

今までの連絡手段としてはいささか原始的だが、全く何もないよりはマシな代物である。その通信機から『獲物はとらえた』と連絡が来たのだ。

このバッジはキラが信用した相手にしか渡してない。

その相手からそう連絡が来たということは、予定通りに作戦が進行しつつあるということを意味した。


「なるほど、逃げ回っていたお嬢さんがこちらに、クフフ」


意味深に笑うキラ。

マリアの顔は絶望に染まる。

それはシンの計画が失敗に終わったことを意味するからだ。

本当はただのレイの暴走であることを知らず、マリアは以前シンに「今行ってどうなるの? ミイラ取りと同じ末路をただるよ」という言葉を思い返していた。


自分のバカさ加減に、呆れてものが言えなくなる。

シンは間違っていなかった。

自分の感情を制御できなかった自分の責任だ。

それにシンを巻き込んだのは他ならぬ自分。


ただ、マリアの想定以上にキラが極悪人だっただけで。

よもや父を裏切った社員が秘密裏に抹殺されてるなど露知らず。

そして被害はこれからも増え続けることを知って、こいつはここで凝らさないとまずいという直感があった。


「捕まえてまいりました」

「よくやりました」


トリイがロープでぐるぐる巻きにしたレイを連行してきた。

キラがそれを引き取る際、違和感を感じた。

レイは本物だろう。

実際に会ったことがあるし、キラの記憶力はいい方だ。


問題はトリイの方。

この男はこんな無表情だっただろうか?

その顔面が、不意にぐにゃりと溶け落ちる。


「なんです!?」


キラに倒れ込む形で抱きついて、そのまま拘束してしまった。

突然の慌てぶりに、マリアも当然目を見張る。

シンが助けに来てくれたのかと思いきや、全くの異なる力。

味方じゃない?

身構えるマリアだったが、奥から姿を現したのはシンだった。


「シンさん!」

「シン!」

「ダメだよ、仲間の顔は覚えておかなきゃ。僕みたいのに利用されちゃうからさ」


ただ少し、マリア達の知っているシンとは形状が異なる。

右手がスライムみたいにぐにゃりと歪んでいたのが特徴的だ。

それが地面を這うと、新しい命を生み出した。


「何者です!」

「名乗るほどのものじゃないよ。ただ、取り返しに来ただけさ」

「ふははは、威勢のいい子供ですね。ただ、私のエールストライクを相手にするにはいささか部が悪い様に思いますが?」

「それを決めるのはあなたじゃないよね?」

「ガキが! 今更泣いて謝っても許してやらんぞ? サイ!」


後ろに控えていた仲間へ声をかける。

しかし反応はいつまでたっても帰ってこなかった。


「サイ! いないのですか?」

「仲間の人? だったらさっき食べちゃったよ?」

「なんですって?」

「ピッキー【コボルトの相】」

『ガルルルルル!』


シンが右腕を振るう。

ゲル状の腕は、姿を変えてエンペラーコボルトを作り出す。

テイマーの召喚とは全く異なる、見たこともない異形。


「エンペラーコボルト!? 推定討伐ランクAのモンスターを、手懐けたんですか?」

「手懐ける? バカ言っちゃいけない。食ったのさ、すごい苦労したんだからね?」

「バカな、こんなガキに仕留められるほど弱くないぞ?」

「僕が弱いかどうかは、これからおじさんが測ればいいんじゃないの?」

「ガキが、舐めやがって!」


シンが強いというのはマリアもレイも知っていた。

テイマーでありながら、全く異なる技術を扱う。

これは勝てるんじゃないか?

そんな予感が胸中に湧き上がる。

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