第22話 冷静なままではいられない

「ちょっとシン、マリアがピンチだよ。ここからどう巻き返すの?」

「まだちょっと待ってて」


感情的になるな、とシンはレイを説き伏せた。

まだ状況証拠が揃ってない。

今の録音だけでは弱いとシンは考える

もっと状況を揃える必要がある。


シンがアスカという大人から得た教訓を総動員したって有効打を打てるかわからない。子供が三人集まったって、出てくるのは妄想をより強くした程度のものだった。

初めから無理無茶無謀なのはわかっていた。

それでもマリアはシンを信じてくれた。

ならばシンも期待に応えねばならないと頭を働かせている。


あと一つ、何か決定打が欲しかった。


「それにまだマリアは生きてる」

「このままじゃ死んじゃうのに?」

「人はこのくらいじゃ死なないよ」


自分がそうだった。死ぬと何度も思った苦境を乗り越えてこれた。

だからマリアも大丈夫だとレイを何度も説き伏せる。

あと何分、待てばいい?

時間の経過とともにマリアは痛めつけられていく。

痺れを切らすようにレイはシンに何度目かの通達をした。

最後の言葉は随分と棘があった。


「みんなシンみたいに強くないんだよ、私は助けに行くからね!」


そう言って、レイはシンの元を離れていく。

まだ付き合いが短いからこそ、一度離れた信用は取り返しにくい。


「全く。みんな僕を持ち上げすぎなんだよ」


シンとていうほど万能ではない。

ただみんなより早くハンターの道を歩み、みんなより早く絶望を知っただけ。

アスカという最高峰の師匠から地獄すら生ぬるいスパルタのイ修行をしただけの女の子でしかない。


やれることとやれないことははっきりしていた。

それをわかっていながらも頼り、勝手に暴走した。

なんでそんな人たちの後始末をしなくちゃいけないんだか。

普通ならば見限っている。


けれど、初めてできた同年代の友達だった。

死なせたくないという感情が湧き上がる。


「らしくないな。早死にするタイプだ」


こんな情に絆されるタイプではなかったはずなのに。

情が湧いたかな?


「ホーク、お前の力を少し借りるよ? ご主人様を助け出すんだ」

「ケーン?」

「ピッキーもこの子の援護を頼むね」

「ぴき!」


シンはピッキー再び指示を出す。

ホークの首巻になり、外部の敵から身を守る盾役を命じた。


「さて、どんな言葉で仲直りしようか」


シンは影に身を任せる。

ここから先、始まるのは一方的な蹂躙だ。

本当の意味での力を見せたあと、嫌われないかだけがシンにとっての懸念案件だった。

今までは如何にこの『異端』すぎる力を使わない様にセーブしていた。

その力の片鱗が、今明かされようとしている。

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