第20話 犯人特定
「ここで休憩としよう」
シンが提案したのは天井付近の暗がりだった。
なぜ地面で休憩しないのか?
単純に危険がいっぱいだからである。
「本当に、こんなところでするの?」
「しない手はないからね」
「何か考えがあるんですね?」
「僕たちの得意分野を考えたらわかるさ」
本体が弱っちくて、遠距離攻撃が得意。
なぜわざわざ身動きが取れない姿を相手に晒す必要があるのか?
シンには不思議でならない。
道中で仕留めたモンスターの肉を解体しながらシンは新たな能力を獲得していた。
「うーん、まずい」
「さっきから何を食べてるのよ」
「ラットの腹肉。生だよ」
「そんなの捨てなさい、ばっちぃわね!」
嫌悪するチームメイトに目もくれず、シンは新たな能力開花に努めた。
その結果、12個目あたりで【仲間呼び】の能力を獲得する。
これは色々役に立ちそうだ。
シンはピッキーに頼んで体の一部をラットに変形させて野に放った。
策は常に何個も持っておくのは、か弱い少女がコボルトの巣で生き残る必須条件だった。
「あと何匹か食べてから行くよ。みんなも腹ごしらえしといて」
シンはじゃぶじゃぶとラットにくを洗ってタレに漬け込んでいく。
串焼き屋特製のタレだ。これに付け込めば多少の臭みも誤魔化せる。
焼けば大抵の寄生虫は死ぬとわかっている、とても合法な食べ物だった。
なお、シゲのところで出してる肉の正体も、モンスターの切り身だった。
解体屋ならではの端材を使った賄いである。
「まずいわ」
「それでもお腹は満たせる。すっかり汚れてしまいました」
「その道を選んだのは自分だよね? 今更泣き言を並べても聞いてあげないから」
「はいはい、お食事させてもらえるだけありがたいですよーっと」
マリアは食事のときに大抵口が悪くなる。
けどこれを食わねばひもじい思いをして死ぬとわかっているからこそ、それ以上文句は言わなかった。
そして時間をおいて、さて出発しようというところで追跡者の動きがあった。
一人の男が、嗅覚の鋭い魔物を手懐けて誰かと連絡を取り合っている。
お互いが手で口を隠して呼吸を止めていた。
狙いはわからないが、その動きから良からぬことを企んでいるのは確かだった。
テイマーの男の後ろから現れたのは、身なりを整えた、やけにベルトを巻きつけた服装が特徴的な男だった。
「確かにここを通ったと、そういうことだね?」
「ええ、都合のいいことに精霊使いの娘も同行していたようです。捕まえれば報酬はたんまりということでよろしいですね?」
「必ず生きてとらえるようにしてください。傷物にしたら許しませんよ。中には生きてるんだからそれでいいと傷物にして持ってくる奴らがあまりにも多い。どうして奴らは話をまともに聞かないんでしょうか?」
「あいつらは女と見るなら抑えが効かんのでしょうな。それで首を絞める。こっちとしてはライバルが減っていいことばかり。おかげでこうして稼がせてもらえるんですからね」
「お前も私の依頼を曲解して渡せばわかりますね?」
「多少の怪我くらいは勘弁してくださいよ?」
「それくらいなら許可しましょう。母体が無事なら、いくらでも利用価値はありますからね、クフフフフ」
怖気の走る笑みを浮かべて、ベルトスーツの男は踵を返した。
人を人とも思ってない笑みに、シンのみならずマリアもレイも萎縮していた。
明らかに女を人間と扱ってこなかった男の軽薄な笑みが、今も記憶の片隅に残って消えてくれない。
「あいつだ」
震えるマリアは搾り出すように言葉を放った。
「え?」
「あいつです、ヤマト商事のキラ社長は」
「まだ私たちの身柄確保を諦めてないみたい」
「捕まったら、人体実験されちゃいます」
「あいつは血も涙もない男よ。生かして返すべきじゃないわ!」
マリアとレイの迫真ぶりにシンは固まる。
この世はクソだと言いながらも、暖かい人に囲まれて生きながらえたシン。
しかしこの世の悪を凝縮した悪人を初めてみて、アスカ姉ちゃんと
為めはれる人が他にもいるんだなぁと感心していた。
正直、あんなことは二度とごめんだと考えながら、同時に野放しにしていい存在でもないと決意を固める。
「二人はあの男をどうしたい?」
「殺してやるわ!」
「二度と悪さができないように腕を折って筋を切るのが世のため人のためだと思います」
二人して過激な発言。
特にマリアの殺意が高い。
レイも大概だが、満場一致で野放しにできないとした。
「でも、突然ダンジョンで亡くなったら世論が黙ってないよ? 僕たちの信用がそもそもない。キラ社長と僕たちの言い分、世論はどっちを信じると思う? 実行に移すのは覚悟がいることだと思う。けど、実行したら犯罪者になる。ハンターは続けていけないし、鑑別所に送られることになるよ? なんなら死刑もありえる。僕たちがダンジョンで社長を襲ったから社長は死んだって」
「それは、そうですが」
「ならあいつを放っておけっていうの?」
「そうは言ってないじゃない」
シンは話をすり替え、自分の考えている言葉を二人にわかりやすく並べた。
先ほど放ったピッキーをキラ社長のベルトスーツの一部に潜り込ませておいたのだ。
「今から作戦を伝えるね」
シンには音を蓄音する能力がある。
その音を再生する能力も持ち合わせている。どちらもバットから授かったものだ。
面の皮の厚いキラ社長はきっとシンたちの提示した情報をはぐらかすし、握りつぶすだろう。
だからこそ、公の場で発表する必要があった。
そのためには情報を集める必要がある。
人を攫うのにダンジョンはうってつけで、必ず取引現場はダンジョンの中で行われる。都合が良い理由は、ダンジョンの磁流は電子機器を狂わせる特徴があるからだ。
密談をするのにうってつけなのだ。その上で録音もされないと思い込んでいる。
「それで、あたしたちは何をすればいいの?」
「マリアには一度捕まって欲しいんだ」
「そんな、マリアさんを売るというんですか?」
「最後まで話を聞いて。その上で結論は最後に出して欲しいんだ」
シンはゆっくりと、今回の計画の全貌を話明かした。
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