第19話 Dランク昇格試験


「おじさん、今日の仕事はこれでおしまいでいいかしら?」

「おう、嬢ちゃん。随分上手くなったな」


あれからマリアは随分と解体の仕事を上達させていた。

なんあら一日一回は必ずやるようになった。

例という張り合う相手がいてこその快挙だろう。

シンは黙々とやるタイプなので張り合いがないと言っていた。


「でも、シンさんの技術は目を見張るものがありますよ?」

「僕のは師匠が師匠だからね」

「あのアスカ直伝だからな。比べるのも烏滸がましいってもんよ」


アスカの名前は駆け出しのレイやマリアも当然知っている。

同じ女でありながら、ハンターの上位に君臨する雲の上の存在である。

シンは数日アスカに預けられ、そこで今の実力を得られたとシゲに語られた。

正直修行中は生きるのに必死すぎて修行内容をよく覚えてない。

シンからしてみたら思い出したくもない黒歴史というのが本音だった。


「シン、あたしたちにもアスカさんを紹介しなさいよ」

「無理だよ。姉ちゃんもあれで忙しいからね。僕を一時的にでも引き取ったのは気まぐれさ」


よもや同じタイプのスライム使いだとはバラせまい。

それを言えばピンチになるのはシンの方だった。

それとゲテモノ喰いの真実も明らかにされてしまう。


「マリアさん、あまり無理強いは良くないですよ」

「だってー」

「とにかく、今度の採取で昇格できるんだから。今は先を見据えて動こうよ」

「はーい」

「楽しみですね」

「楽しいばかりで済めばいいけどね」


実際にランク昇格試験は楽しいものばかりだけではない。

ギルド側では見極めるために様々な引っ掛け問題を用意していた。

Dランクになればそれなりに強いモンスターに遭遇することもある。

Eと違い、中には撤退を優先した方がいい個体も混ぜてきたのだ。


それに昇格試験を受けにきたのはシンたちだけではない。

その日は数百名のチームが名を連ねた。

上位ランクに上がれるのはその中の数名のみ。

課題を達成するだけでは昇格の対象にはならない。

その上でどれだけ余力を残すかもチームに求められる課題の一つであった。


シンは渡されたマップに目を通し、すぐに罠を張る場所を見極める。


「こことここは注意したほうがいいかもね」

「毎度のことながらよく気がつくわね」

「僕が試験官なら仕掛けるだろうなって」


シンはマップのひらけた空間を指した。

近くに水場があり、次のエリアに通じる階段がある。

今回アタックを仕掛けるダンジョンは全部で五階層。長期戦だ。

なれば休憩は必須。

セーフエリアの奪い合いが生じることは目に見えていた。


「普段アタックを仕掛けてるダンジョンと違って随分と入り組んでいます」

「そこもポイントなんだろうね。多分Dランクダンジョンのほとんどはこれくらいに広大なんだろう」

「広いマップと言えばホークの出番ね!」

「頼りにしてるよ」

「ケーン」


ダンジョンの入り組んだ地形は、上空から見下ろすことのできる精霊の独壇場だった。しかし当然それを警戒する層は多くいるだろう。

なのでピッキーも体の一部を渡して用心して飛んでもらった。


「ぴき」

「どうしたの?」

「さっそく射掛けられたらしいよ。ピッキーを連れてってよかったね。あのまま無防備で飛んだら撃ち落とされたかも」

「同じ試験者よ? どうしてそんなことをする必要があるのよ!」

「でも仲間じゃないよね? ライバルの足を引っ張るのもこの試験の一つの課題なんじゃない?」

「正気じゃないわ!」

「正気じゃハンターはやっていけないからね」


特に相手にすることもなく、シンはピッキーに武器になったり鎧になってもらいながら進んだ。

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