第15話 汚れ仕事は嫌でしてよ


一週間も活動すれば、お互いに自分の足りないものが見えてくる。

特にシンはマリアの特定の仕事を嫌悪する傾向をよくないと思っていた。


「マリアってさ」

「何よ」

「あんまり汚れ仕事やりたがらないよね。全部精霊任せなところあるじゃん?」

「またその話?」

「何度だってするよ。綺麗好きなのはいいことだけど、それに囚われすぎて食いっぱぐれることだってあるんだよね。実際に昨日だってさ」

「解体依頼のことね?」

「うん。君が嫌がらなければ今日のランチは少し豪勢だったんじゃないかなーって」


マリアのテーブルには野菜屑の浮かんだ塩味のスープが置かれている。それ以外何もない。空腹を訴えるかのように先ほどから腹の虫が何十奏もかなでている。


「汚い仕事はやりたくないの! 依頼料だって安いし、クリーニング代は出ないのでしょ?」

「そりゃ出ないさ。でもこうして今空腹で辛い思いしなくてもいいんじゃないかと思ってるよ?」


シンは自分だけ串肉を頬張り、あたしにもよこしなさいよと睨め付けるマリアを牽制しながら話を続けた。

これは自分の稼ぎで、タッグを組んでるとはいえお裾分けするものではない。

二人で稼いだお金ならそうするが、彼女はその仕事を引き受けなかったのだからこれは自分の分であるとシンは譲らなかった。


「シンがそのお肉をあたしに分けてくれたらいい話じゃないの?」

「君の贅沢体質にこの串肉が合うとは思わないだけだよ。これは善意で言ってあげてるんだ。食事は1000円以上じゃないと受けつけないと言ったのは君じゃないか」


育ちの良さはこういう時に足を引っ張るものだ。

串焼きは一本200円もするが、それでも飢えて死にそうな時の栄養源にはなり得る。ゴブリンの血肉に比べたらだいぶまともな味付けだし、シンからしたらご馳走だ。それを自分のわがままで依頼を引き受けなかったマリアに譲るなんて到底できない。

シンとて、お金持ちではない。切り詰めた生活をしてのやりくりで捻出した資金なのだ。それをちょっと空腹そうな子の前で美味しそうに味わいながら食べているだけである。


「ぐぬぬぬぬ、あたし、やっぱりあなたとはやっていけそうもないわ!」

「そう、じゃあ解散する?」


僕は別に構わないけどね、と白状するシン。

正直一緒にいて役に立つどころか足を引っ張ることしかしてこないマリアにほとほと呆れているのだ。

善意での付き合い。一人より二人の方が安全だとギルドからの案内を受けて一緒に行動している。

けれど今日の今日までお互いに意見が噛み合った試しはなかった。


「シンのばか! そこはそんな気はなかったって謝るところよ! 女心がわからないやつね! あとお肉よこしなさい!」

「僕も女の子なんだけどね? そうやって性別で自分を優位に立たせようとするのは良くないよ? 安い人間だって思われちゃう」

「こんなに謝ってるのにどうしてそんな意地悪するの!」


今のどこに誠意ある謝罪が?

シンは首を傾げるが、マリアはそもそもシンの話をまともに聞いちゃいなかった。

串から肉は一つ奪われ、シンはそれこそ怒り心頭である。


「マリア、君がそんなんだと僕も困るな」

「何よー、お肉のひとつくらいいいじゃない」

「その考えでいくと、腕の一本ぐらい持って行っても構わないという解釈になるよ?」

「は? 腕がなくなったら困るでしょ? シンってバカなの」

「君の考えに沿った回答だよ。全部は奪ってないだけ温情だと君が言ったんだよ? そして若い女の子の体を欲しがるハンターって世の中には多いんだ。お金になるからね。みんな貧しい顔をしていて近寄るんだ。おまえは五体満足で羨ましい、一本よこせって。そういう場面に直面した時、君は一本譲ってあげるかい?」

「あげるわけないでしょ!生活もままならなくなるわ!」

「さっきのマリアみたいに強引に奪われたら?」

「反撃してやるわよ」

「そうだよね、僕も同じ意見さ」


ポカポカ。シンはやられた恨みを即座にやり返した。

マリアは頭を抑えてしゃがみ込む。

叩くなんてひどいという顔をしていたが、先に奪ったのは君だよね?と言い返してやった。

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