第14話 鷹月マリア


「お姉さん、仕事終わったよ」

「あらー、いつも早いわね、シン君」

「慣れたもんだよ」

「それじゃあこれは達成報酬ね。それと、可愛い彼女さんがお待ちよ?」

「え、待たせちゃってた?」

「初めてのタッグということで、向こうもずいぶんと舞い上がってたみたいね」

「へー」


シンはEランクハンターとしてやっていく上で、ギルドからタッグを組むことを推奨されていた。戦力的には同じくらいで固まった方がより安全だからだ。

新人同士でタッグを組む都合上、役割は明確な方がいい。

タンク兼アタッカーとして優秀なシンの相棒は、精霊使いがあてがわれた。


名をマリア。精霊ルナ、精霊ホークの二体を従える、回復も攻撃もできる器用貧乏な精霊使いの少女だった。良家の生まれで、ずいぶんときつい性格をしていることから、今の今まで誰ともコンビを組めずにここで足踏みをしていたのだ。


初日から遅刻したらまずいだろうなと思っていたシンは、予定よりも早くきた少女に対して面通しを行った。話だけは聞いていたのだが、顔を合わせるのはお互いに初めてだった。


「遅いわ」


待合室にいたのは、これからダンジョンに赴くのにその格好? と突っ込まずにはいられぬほどの上等な生地を使った純白の衣装に身を包む少女がいた。

以前までのシンも相当だが、それに輪をかけて汚せばそれこそ怒られそうな装いに軽くめまいを覚えている。


「君が早すぎ」


シンは臆することもなく、対応する。


「何よ時間より早くくるのは礼儀でしょ?」

「それ、どこのルール?」

「上流階級では常識よ」

「悪いね、僕はそんな真っ当な人生を送ってきてないんだ。そもそもさ、なんでそんな良家のお嬢様がこんなダンジョンなんかでハンターをしてるのさ」


シンにとっての疑問はそこだ。

上流階級の人間は、一生その社会から出てこぬまま人生を終えると聞く。

しかし現に少女はそこの生まれであることを誇りに思い、執着していた。

けど現実は非常に残酷である。


「お父様の会社が倒産しましたの」

「うわぁ」


部下による裏切り。会社の金を他社に横流しされたんだそうだ。

その上で重要な資料も持ち去られ、資金繰り以上に打撃を受けて倒産と愛なったのだそうだ。


「これから先はこっちで食べていくしかないのですわ」


今自分がここにいるのが信じられない。帰れるのだったら今すぐに帰りたいと嘆く少女。でも、ここにハンターとしてきたのならこれからの人生を受け入れなければならない。

シンにも少女の気持ちは痛いほどわかる。

孤児になるまでは一般家庭で育った記憶があるシン。


しかし能力がお粗末だったために家族から見限られ、優秀な妹だけを育てることで一致団結。文字通り捨て置かれたシンはそのひから物乞いのような生活を送る他なかった。


「それは御愁傷様」

「あなたは気楽でいいですわよね」

「どうしてそう思うのさ」

「そんなボロを身に纏って、それでも平気そうな顔でヘラヘラ笑っていられる。とても正気とは思えませんわ」

「僕が正気じゃないと見えてるんなら、君の目は正常だよ。ハンターっていうのは正気じゃやってけないから」


シンは真実を告げた。

アスカと出会ってからの二週間はとても正気じゃやりきれなかっただろう。

あの頃の光景を思い出すだけで吐き気を催す。

それほどの重い過去、黒歴史が集約していた。


「怖気が走りますわ」

「それでもやらなければならないんだ。まずはその服を売ってお金にすることから始めよっか?」

「は?」


少女の両目は理解ができないとばかりに見開かれた。

シンはやると言ったらやる女だ。

アスカにやられてきたことを、今度はこの少女にやってやるつもりでいた。


そもそもそんな服を着て歩くだけで攫ってくれと言ってるようなものだった。

ダンジョンの周りには一攫千金を狙うハンター崩れがそれこそごまんといるのである。

その日から二人はお互いに軽口を叩きながら、それでも玉石混合の中お互いを励まし合って腕を磨きあった

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