第13話 解体飯
それはそれとして、シンは相変わらず解体掃除の仕事は続けていた。
それはなぜか?
死体とはいえ高級な肉が食べ放題だからである。
回されてくる死体はどれも高ランクモンスターであるという思い込みと、今から味に親しんでおけばいざという時に味変に対応できるからという打算があった。
「おじさん、消化作業終わったよー」
「さすが坊主だぜ。なぁ、どうだ。いっそのことうちの正社員になるってのは」
シゲはここぞとばかりに勧誘する。
シンは迷った素振りを見せるが、答えは既に決まっていた。
もしそれがアスカに誘われる前だったら、二つ返事で許可していただろう。
しかし今のシンにとって、そこに然程の魅力は感じられなかった。
「ありがたいお話だけど、僕昇格したばかりなんだ。ダンジョンハンターとしてやっていけるって、認められたの」
シンは特に見せびらかす相手がいなかった昇格済みのライセンスをシゲに見せつけた。
シゲは自分のことのように喜んだが、どこかでもったいなく思っていた。
ハンターの命は軽い。リスクに対してリターンの少なさも気になるところだ。
まだまだ子供のシンにそんな無理をさせることもないだろうにと思うばかりである。
「そうか。じゃあハンターとしてやってけなくなったらうちに来い。それまでお前さんの席は空けといてやるぜ」
「ほんと? じゃあその時はお願いしようかなー」
「ははは、ずいぶんと気が早いな」
「実際、こんな美味しい仕事僕以外の誰もいないのはずっと不思議に思ってたんだよね。どうして誰も引き受けないんだろうって」
「今のハンターは綺麗好きなのさ。臭い、汚い、給料が安い。こいつを最も嫌う傾向にある」
「わがままなんだね」
「だっはっは! 坊主から言わせりゃそうなるな」
シゲは周囲のハンターを笑い飛ばすように言った。
実際、芯を酷使している自覚はあった。
それもこれも解体費用の安さからくる雇用費問題もあった。
シゲからすればもっと払っても惜しくないと言えるほど。
しかしそこを多く渡せば今度は自分が立ちいかなくなる。
難しい線引きだった。
「じゃあな、坊主。今日も助かったぜ。駄賃に色つけといたから、後でうまいもんたらふく食べな」
「わーい! ありがとうおじさん」
「なぁに、仕事に対する正当な対価だ」
「うん!」
シンの背中を見送りながら、シゲは願う。
どうかあの子の顔も明日も拝めますようにと。
何度も将来有望な子供がダンジョンに飲み込まれてきた。
シゲとしては、子供をダンジョンなんて危険な場所に向かわせなくてもいいだろうにと思う他無かった。
シゲには生きていればシンと同じくらいの子供がいた。
その子供はシンと同じように昇格したばかりのハンターライセンスを見せびらかして、その二週間後に消息をたった。
ダンジョンに取り殺されたのではないかという話が持ち上がり、やるせない気持ちになったのを今もまだ、抱えていた。
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