第12話 ランクアップ!



「神薙プロ! 一体今までシン君をどこへ連れ歩いてたんですか!」


久しぶりに顔を出したギルドでは、顔見知りのお姉さんが顔を紅潮させながら対応していた。預かると言ってからまるまる二週間、一切の連絡を絶った結果だった。


「あっはっは。まぁ満足いくまで修行したし、能力を見てってよ」

「能力? この子はテイマー以外の何者でもないでしょう?」

「あたしがただのテイマーに興味を示すと思う?」

「それはそうですけど……シン君、このお姉さんに何か脅迫されてない?」

「されました」


シンは真顔で、はっきりと答えた。

脅迫どころじゃないほどの苦境を乗り越えてきたのもある。

しかしここで敵対したところでシンに良い話は回ってこない。

下の立ち位置に戻されるだろうことはシホの顔を見ればわかった。

せっかく苦しい思いを乗り越えてきたのに、それをなかったことにされるのだけは納得いかないシン。


「ほら、やっぱり!」

「でも僕、そのおかげでゴブリンを倒せるようになったんですよ」

「え、スライムだけで?」


受付のシホはきょとん顔。

対してアスカはふんぞりかえって得意顔になっていた。


「ほら見なさい。この子は才能の塊だったわよ。あたしの思った通り。この子は世界をひっくり返す賜物よ。なのでこの子のライセンス昇格をしてあげてちょうだい。デビュー戦は華々しくね?」

「いきなりそんなことを言われましても」


シホは話の流れについていけないとばかりに慌てふためく。

そこへ、


「いいじゃねぇか。やらせてあげりゃ」

「ギルマス」

「やっほー! おじさん。景気良さそうね」

「お前、この頭部を見ていうことがそれか? 苦労が絶えん証拠だと思うが?」


ギルドマスターの頭部は後退気味だ。それを本人自らが茶化しては仕事を増やすなとアスカに釘を刺していた。

鉄板ジョークだと本人は言うが、職員が茶化せばたちまち圧力をかけてくる厄ネタでもあった。


「おじさんは?」

「ここのギルドに通ってて俺を知らないルーキーもいるのか?」

「マスター、この子は雑用係で……」


雑用をしていたら、昇格の道は果てしなく遠い。

何せダンジョンに赴いて討伐することがないのである。

昇格試験の立会人としてギルドマスターは出席するが、その試験に参加したことのないシンにとっては見慣れぬおじさんだった。


「あたしが鍛え直して雑用なんて言わせない実力になってるから、見物よ?」

「まぁ、昇格試験自体はいつでも受け入れているからよ、構わんぞ」

「ギルマス!?」


シホはたった二週間見かけなかっただけのシンのことが気になって仕方がなかった。

見た目こそか細い少年である。

もしもその試験で怪我でもしようものなら、罪悪感に駆られる自信があった。


「平気だよ。相手がゴブリンでも、負ける気はないから」

「言ったな、坊主?」


睨めつけてくる強面のギルドマスターに、シンは意に返さず見返した。

もはやこれくらいの威圧で怯むシンではない。


「なら立会人は俺が務める。ゴブリンを出せ!」


通されたのは体育館のような広さを持つ強化ガラス張りの室内だった。

中にはシンと、室内に通じる大きな扉。

そこからモンスターが放たれる仕組みだった。

観客席からはアスカやギルドマスター、シホらがシンの実力を測るために見守っていた。


現れたのはゴブリン。

シンは特に用心するまでもなく、ピッキーに語りかける。


「いくよ、ピッキー」

「ぴー」


そこにいるのはいつも雑用に明け暮れる少年で。

しかし黒いスライムであるピッキーは一瞬にしてシンを飲み込むと、全く別の姿に変貌した。

真っ黒のボディスーツに身を包んだシンは、歴戦の戦士を思わせた。

手に持つのは槍。異様な漆黒の槍を構えて、飛び込んでくるゴブリンの対処をする。


「ふっ」


最初に棍棒を貫いた。

しかしそれだけではない。槍が貫いた棍棒はそのまま槍に飲み込まれ、消化した。

そう、それはただの槍ではない。スライムが擬態している槍だと漢籍の誰もが理解した。その上で捕食。スライムの特性を使用したのだ。


武器を失ったゴブリンは、果敢に攻め込んでくる。

ヒョロいガキであるシンなど組み伏せて仕舞えば力で屈服させられる。

そう考えたゴブリンは捨て身で突っ込み、


「はい、おしまい」


シンの纏うボディスーツも特別性。つまりはスライムなので組みついた時点でおしまいだった。哀れゴブリンは肥大化したピッキーに捕食され、そのまま消化されてしまった。シンはちょっと嫌な顔をしながら、事前に買い込んだ果実ドリンクを一口飲んだ。今頃口いっぱいにゴブリンの血肉の味が広がっている頃だろう。

今回は捕食しなくても良かったんじゃないか? そう思わなくもないシンである。


「いやぁ、はは。そうきたか。そのスライムをそこまで使役するテイマー、確かにこれはFに置いておくのはもったいないな。よし、俺の権限で坊主は今日からEランクだ!」


ギルドマスターの宣言により、シンの進退が決まった。

その日のうちにライセンスは更新され、シンは新しい道を進むことになった。

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