第5話 ごちそう


翌日から、シンは今までと全く違う格好をさせられた。


「あの、アスカさん」

「これからはお姉ちゃんって呼びなさい」


圧迫面接さながらの威圧で、アスカはシンに呼びかける。


「お姉ちゃ。これ、恥ずかしいよぉ」

「良いじゃない。似合ってるわよ?」

「でもぉ」


シンはスカートを履かされていた。

薄汚れたオーバーオールから一転、純白のワンピースに真っ白なポーチ。

ポーチの中から真っ黒なピッキーが外の世界をのぞいていた。


「アスカさん、そちらのお子さんは?」


受付のシホは見慣れぬ少女を前に同行者に尋ねた。


「シンよ。似合うでしょ?」

「お姉さん、助けて」

「それはそれは何とも……ごめんなさい、シン君私の力では助けられそうもないわ」

「うぅ……ぐすっ」

「泣かないで、シン」


泣かしたのはお前だろがよ。シホはアスカを呆れたように見つめながら内心でぼやいた。

少女趣味があるとは聞いていたが、少年を女装させるだなんて思いもしなかった。

シホは内心でドン引きしていた。

そしてちょびっとだけ、シンを可愛いと評価していた。


「シンはいつもどんなご飯を食べてるの?」

「串肉を買って食べてるよ」

「じゃあ、今日からそれは無しね?」


じゃあ何で聞いたのか。

シンは納得いかない様に無言で訴える。


案内されたのは高級そうなレストラン。

そこで今日こんな格好をさせられたのかとシンは初めて納得した。

そこの客達は皆きらびやかな格好をしており、もしも普段着で連れてこられていたら悪目立ちしていたのはシンの方であったろう。


「いつものお願いね」

「お連れ様もでございますか?」

「大丈夫よね?」


シンは何が何だかわからず頷いた。

出てきたのは旨味の強そうな匂いを放つ肉の塊だった。

食欲をそそるソースが何とも空腹を誘う。


「いただきましょう」


アスカは促すが、シンは食事に手をつけない。

理由を察したアスカは、自分で食べて、それとなく食べ方を教えた。

今まで串焼きしか食べたことのなかったシンは、カトラリーの扱い方も当然わからない。アスカが気を利かせてくれたおかげで、恥をかかずに食事を始められた。


「うわっ」


そこで味わった味覚は一生忘れられないほどに濃密で、死ぬまで忘れないものになった。

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