第11話


「…………」


 俺が扉に触れた途端、周囲の景色が洞窟のものから一転した。重厚な石壁と通路があり、ブランケットの照明が周囲を照らしつけていた。いかにもダンジョンといった感じだ。


 後ろには例の扉があるが、やはり触れても何も起きない。これで、俺たちはボスを倒すまでここから出られなくなったってことだ。


「コオオオォッ……」


「おい、出たぞ!」


「気をつけろ!」


 やがて、一体のモンスターが前方から登場する。馬鎧バーディングを装着した骸骨の馬に乗り、槍と盾を持った騎士のような姿をしたスケルトンだ。ゆったりとした足取りだが、Eランクダンジョンのモンスターの割にはかなり強そうな感じがする。


 俺はやつを【神の目】で倒そうと考えたが、誰も攻撃してないのにいきなり消えたら不自然だろうから、みんなが頑張っている間どさくさに紛れてやるとしよう。


 二人のマジシャンタイプが火球を放って攻撃し、アタッカーの一人が弓矢で攻撃するが、悉く盾で弾かれているのがわかる。


「おい、タンクタイプ、何ぼんやりしてんだ。こういうときこそ出番だろ! やつの攻撃を受け止めろ!」


「わ、わかってるさ! ちょっと考え事をしていただけだ。Eランクのモンスターくらい、俺が受け止めてやる!」


 それまで呆然としていた大柄なハンターが、我に返った様子で立ち向かっていく。Eランクのモンスターの割には強そうだと思ったのかもしれない。


 ただ、彼のステータスを見るとDランクのハンターだったので、Eランクのモンスターであれば楽に抱えられるはずだ。


「ぐぐっ……⁉ こ、こいつ、攻撃がやたらと重たい……!」


 骸骨騎士の攻撃を受け止めるタンクタイプのハンターだが、言動を見ればわかるようにかなり苦しそうだ。ヒーラータイプのハンターが三人いて懸命に回復しているから大丈夫だと思うが、やはり妙だな……。


 とにかく、あの男が耐えてる間にこっちがなんとかしなきゃいけない。それでも、あのモンスターは盾で巧みに防いでいる。


「こうなりゃ、俺の出番だ!」


 リーダーのヒデキさんが青い長剣――ブルートゥースを持って攻撃していく。怒涛の勢いで連続攻撃を仕掛けていて、さすがCランクなだけあって強さを感じさせる。


 だが、それでもスケルトンナイトは槍で受け流すようにして、ヒデキさんの攻撃を片手で巧みにいなしていた。それどころか、相手の攻撃に慣れてきたのか攻勢に転じ、C級ハンターのヒデキさんを防戦一方にさせていたのだ。


 しかもその間、マジシャンらが火球や氷の塊をぶつけているのにもかかわらず、だ。骸骨騎士はもう一方の手で盾を巧みに使い、こっちの攻撃をものともしないんだ。


 やはりさすがにおかしいな。これは何かあると思い、俺は【神の目】でモンスターを鑑定することにした。


 モンスターの名称:アビスナイト

 属性:闇

 サイズ:大型

 種別:一般モンスター

 モンスターランク:A

 腕力:A

 器用:A

 体力:A

 敏捷:B

 防御力:A

 魔法力:C

 精神力:B

 治癒力:B

 運:C


「なっ……」


 すると、とんでもないことがわかった。モンスターランクがAだと……。これはSに次ぐ強さってことだ。


 Eランクのダンジョンには同ランクのモンスターしか登場しないし、DランクならDかEランクのモンスターしか出ない。つまり、ここは最低でもAランクのダンジョンってことになる。


 これはすなわち、ヒデキさんが言っていたようにトラップの一種としてダンジョンのランクが跳ね上がり、EからA以上のものに変化したということになる。


「おい、そこのタンク役、逃げろ。殺されるぞ!」


 俺はタンクタイプの男に向かって叫んだ。アビスナイトは確かに強いが、移動速度はそこまで早くないので、タンクがいなくなってもこっちに来るまでに【神の目】で倒せると考えたんだ。


「……はあ? 新人の分際で粋がるな! Eランクのモンスターくらい、余裕なんだよ!」


「そうだそうだ、お前、その格好といい生意気だぞ!」


「ルーキーは黙っとけ!」


「…………」


 本人だけでなく、他のハンターからも否定されてしまった。仕方ない。それなら【神の目】の真骨頂である、存在を消す力を使ってモンスターを倒すしかなさそうだ。


「コオォォオッ……」


「うぎゃあああああああっ!」


「「「「「なっ……⁉」」」」」


 その直後だった。ハンターの男がアビスナイトの槍で首を突かれて宙づりになってしまった。おいおい、三人のヒーラーが回復していたのに、タンクタイプのハンターがあっさり死んでしまっただと……。


「お、おい、モンスターがこっち来るぞ! タンクタイプがもう一人いただろ。早く止めろよ!」


「あ、あいつだ! お前タンクだろ!」


 そこで、尻込みしていた太った男が指を差される。タンクとして活動していれば、嫌でも顔を覚えられるってわけだ。


「しょ、しょんなあっ! あ、あんな恐ろしいの見た後で行けるかよ!」


「うるせえ、早く行けや!」


「行けってんだよ!」


「ひぎいぃっ!」


 マジシャンの一人とアタッカーの一人にケツを蹴られて、無理矢理アビスナイトのほうへ行かされる男。本当に嫌な光景だと思ったら、蹴ったやつらはサポート時代の俺をいじめていた底辺ハンターのイツキとアツシだった。


 だが、その間に十秒間は経過した。


「コオオオオォオッ……!」


 よし、消えた。俺が敵愾心をもって見つめ続けたことで、ものの見事に十秒後、アビスナイトの討伐に成功した。

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