第10話
ゲート内は、薄暗い洞窟のような場所だった。俺たちが2列になって歩いているように、5人くらいが並んで歩けるだけの横幅はあるが、天井は2メートルほどと低いので圧迫感が半端なかった。
前方にいるヒーラータイプのハンターが光を出して周囲を照らしつけてくれるので助かる。マジシャンタイプでも炎を出せばいけるんだろうが、火傷の危険性もあるからな。
仮想ダンジョンとはっきり違うといえるのは、その独特の空気だ。
今にも何かが脈絡もなく飛び出してきそうな、そんな恐ろしい気配をこれでもかと漂わせていたんだ。これは実際に味わってみないとわからないものだ。あと、少し肌寒い感じがする。
俺の緊張感を和らげようとしたのか、C級ハンターのヒデキさんが近づいてきて俺の肩をポンと叩いてきた。
「よう、ドウミョウ。お初だよな?」
「あ、は――そうだ。初顔だ」
俺は敬語を使おうとしてやめた。そうだった。今の俺はミチアキだがミチアキじゃない。ハンターのドウミョウなんだ。
危険なダンジョンにいる以上、学校でやってたように悪党を延命させるようなことはしない。俺に危害を加えようとするやつがいるなら、すぐにでも【神の目】で消してやるつもりだ。
「お、生意気そうな感じでいいねえ。そのマフィアみてえな格好もイカしてるぜ! ハンターはそうでなくっちゃなあ」
「……というか、ヒデキさん。こんなところで会話なんかして大丈夫なのか?」
俺は率直な疑問を口にした。ダンジョンゲートが発生した時点で外にモンスターが出ることもあるということは、この時点でも出現するはずだからだ。
「ああ、お前さんは初めてだから知らねえだろうが、まだゲートの段階だから大丈夫だ。もちろん、まったくモンスターが湧かねえかっていったら違うが、この辺は安全だ。仮に湧いても低ランクな上に少数だから、会話しながらでも対応できる」
「なるほど」
「ただ……ダンジョンってのは、途中でランクが跳ね上がる可能性もある。ゲートに入った途端、ランクが上がることもあるんだ」
「ってことは、それもトラップの一種?」
「あぁ、そうだな、そうとも言える。だからいくら低ランクでもダンジョンが恐ろしい場所なのはもちろんだが、本当に怖いのは人間だ」
ヒデキさんは神妙そうな顔で意外なことを口にした。交流関係も広そうなだけに、サポーターのときには知らなかった一面だ。
「なんせ、高価な魔石を巡って争うわけだから、それはわかるだろ? コンピューターゲームみてえに、パーティーを組めば裏切らないっていう状況にはならんからな。だから俺は、新人のハンターにはできるだけ声をかけるようにしてる」
「……じゃあ、ヒデキさんは俺のことも探ってたのか?」
「いやいや、探るっていうか、同業者なんだしなるべく仲良くやりたいだろ? それで、他愛もない世間話でもして交流する感じだ。ドウミョウだったか。お前さんは悪いやつじゃなさそうだからいいが、顔見知り以外のやつを警戒しておくのは、これは身を守るためには当然のことだ。ダンジョン内は治外法権だから、いつ何があってもおかしくねえからな」
「……何か、そういう事件が……?」
「……ああ。ここだけの話だが、実際起きたことはある。というか、レイドじゃしょっちゅうだ。たとえば、仮名のハンターとか、実際のランクを隠してるやつとか。そういうやつが入り込んだときに、何かが起きる確率は急激に高まる」
「…………」
ヒデキさんが仮名と発したところでドキッとしたのは、俺が実際にそうだからだ。といっても、俺は自分が危害を加えられない限り、そういうことをするつもりはないが。
「それで、ヒデキさんは俺のような新人を見たら一応挨拶してるわけだね」
「そうそう。ドウミョウは今のところ大丈夫そうだな。何かあっても俺には手を出さないでくれよ。がははっ!」
「…………」
笑いながら俺の肩を叩くヒデキさん。初対面のハンターに対してこういう言動ができるのも、それだけ自信があるからこそといえる。
そうだ。ヒデキさんのステータスを【神の目】で確認してみよう。
名前:浦田秀樹
年齢:53
性別:男
ハンタータイプ:アタック系
ハンターランク:C
ダンジョン攻略回数:9
腕力:B
器用:D
体力:C
敏捷:C
防御力:C
魔法力:F
精神力:D
治癒力:D
運:E
武器:ブルートゥース
防具:クリスタルジャケット
なるほど。アタックタイプなだけあって、腕力が高い。俺の場合はユニーク系ということで特に秀でたものは見当たらなかったが、それでも所持能力でお釣りがくるレベルだからな。
装備欄も【神の目】で調べてみる。ブルートゥースっていうのは、Dランクの魔石(青)で作られた剣で、腕力が10%上昇する効果なんだとか。クリスタルジャケットにはEランクの魔石(透明)が使われている。見た目は普通だが、モンスターの攻撃を受けても壊れにくい頑丈な服のことだ。
周りのハンターを確認すると、大体俺と同じ底辺のEか、それよりワンランク上のDだった。俺をいじめてたやつらも、相変わらずパッとしないのかEランクだ。
「……っと、そろそろみてえだ」
「そろそろ?」
「ああ。もうすぐゲートの内側に入る。ドウミョウ、見てみろ、あれが境界線だ」
「……」
ヒデキさんに促されてみると、洞窟の奥には、強い青みを帯びた大きな扉があった。あれが境界線なのか……。
「あれはな、開けて入るもんじゃなくて、体のどこかで触れて入るもんなんだ。だが、その瞬間もう後には引けなくなる。一方通行の扉ってわけだ」
「つまり、ボスを倒さないと戻れないってことだな」
「そうそう。だが、敵はボスだけじゃねえ。あんまり攻略できないようだと、後から入ってくるハンターに手柄を奪われる可能性もあるから気をつけろ」
「……トシヤとか?」
「お、よく知ってるな。あいつは油断ならねえからな。とにかく、ゲートの内側に入ってからは会話はなるべくしないほうがいいだろう。気を引き締めろよ、新入り」
「了解」
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