第9話


 翌朝。起きてすぐ携帯を確認してみると、案の定カズヤからお怒りのメールが届いていた。


『おいコラ、ミチアキ。今度会ったら必ずぶっ殺してやっからよお、覚悟しとけや!!!!!』


「…………」


 ビックリマークが5つもあることから、相当お怒りの様子。


 だが、届いていたのはそれだけじゃなかった。


 明け方の6時頃、すなわち今から1時間ほど前、俺の自宅の最寄りのコンビニ前でダンジョンゲートが開いたんだとか。それで俺を含む近隣のハンターに募集をかけるメールも来ていたんだ。


 これはハンターだけの特権といえるだろう。しかも、ダンジョンランクは最低の『E』とのことで、ハンターになりたての俺が行くには最適だといえるんじゃないか。というわけで、迷いなくメールを送って募集に応じた。


 もちろん、俺が向かうのは学校じゃなくてダンジョンゲートだ。能力を使いすぎたのか少し疲れてたのもあって、しばらく家でゆっくり休もうと思っていたが、このチャンスを無駄にはしたくなかった。


 再び着信があったので携帯を確認すると、あと30分ほどで出発するとあった。一人で行くよりも多人数のほうが安全なんだし急がないとな。サポーターをやってたときの知識があるからわかるが、ハンターならランク関係なく誰でも入れるし、人数制限も特になかったはず。


 っと、その前に俺は父さんの古着を拝借することにする。白い帽子に同色のスーツ、さらにはサングラス。いわゆるマフィアスタイルってやつだ。


 うーん……ちょっと古風かもしれない。姿見でそれを見てみると、なんともいえない気持ちになってくる。それでも、別に格好つけようとしてるわけじゃなくて変装するためだから仕方ない。


 近隣ではサポーター時代の俺をいじめてきたハンターも多くいるので、そいつらに俺がハンターになったことを隠すためだ。


 もしそれがバレたら、学校のいじめっ子たちもそうだが報復を恐れて行方を晦ます恐れがある。そうなれば復讐もままならなくなってしまう。だからこそ、こうして正体を隠す必要があったってわけだ。


 ちなみに、ハンターとしての仮名も既に考えてある。俺の道明という本名から取って、音読みの『ドウミョウ』にすることにした。


 早速、俺は現地へと向かった。徒歩でも5分で着く場所なだけあって、すぐに目的地が見えてきた。お、いるいる……。


 コンビニの駐車場にパトカーが集まって規制線が張られているのがわかる。放置しておけばいずれモンスターが湧いてくるのだから当然だ。


 コンビニの奥が青白く光っており、それがダンジョンゲートであることを意味していた。サイズ的にはゴミ箱くらいか。小さいゲートほどランクは低いといわれてるんだ。


 周囲には野次馬も大勢いて、規制線の中には警察、ハンター、協会関係者、さらにはサポーターの姿も見えた。免許がある者だけが中に入れる仕組みってわけだ。


 警察はすぐに見分けがつくが、ハンターは自由な格好をしているのでそうでもない。ただ、サポーターは腕に青い腕章をつけているし、協会関係者は紺のスーツを着ていて胸には弓を象ったバッジもついているのですぐにそれだとわかった。


 俺が規制線に近づくと、警察が声をかけてきた。


「おい待て。ここは一般人が入れるような場所じゃないぞ」


「俺はハンターだ。これを」


「……あ、ハンターさんでしたか! 見慣れない顔でしたので、失礼しました! どうぞ!」


 俺が免許をちらっと見せると、警官がびっくりした顔で頭を下げてきた。センサーは協会だけでなく警察も扱ってるので、もし偽の免許だと発覚した場合はハンターを騙ったとして現行犯逮捕されるんだ。


「ドウミョウ様ですね、お通りください」


 コンビニの入り口前にいる協会の監査員からも許可され、俺はダンジョンゲートのある店内に入ることができた。


 邪魔だからか商品の陳列棚が端に追いやられたコンビニ内、ハンターたちが携帯を見ながら時間を確認している様子。俺を含めて全部で10人だ。


 メールで見たが、メンバーはマジシャンタイプが二人、ヒーラータイプが三人、タンクタイプが二人、アタッカータイプが二人になっている。俺は秘密ということで、計十人ってわけだ。


 その中には、俺をいじめてきたハンターたち――マジシャンタイプのイツキ、弓手アタッカーのアツシの姿もあり、こっちをチラッと見たもののそれだけだった。それも当然だ。


 今の俺はサポーターじゃなくてハンターだし、こんな格好だから簡単に気づかれるはずもない。ただ、例のB級ハンターだけはいなかった。朝早いのもあってまだ寝てる可能性もあるな。


 コンビニの前にはサポーターの姿もあって、みんな俺に対して頭を下げてきたのでこっちも思わずやってしまった。ついつい、こういうところでサポーター時代の癖が出てしまう。サポーターに頭を下げるハンターなんて聞いたことがない。


 ん、それが面白かったのか、一人の少女がクスクスと笑っていた。見慣れない子だ。新人だろうか。ああいう子も、俺が【神の目】を持っていると知ったら、怖がって近づかなくなるんだろうな。それくらいの恐るべき能力だからしょうがないが。


「どうやらみんな集まったようだな。見ない顔もいるから念のために説明するが、俺はC級ハンターの浦田秀樹うらたひできだ。通称、お節介の秀樹とも言われてる。B級のトシヤが来てないから、俺がリーダーをやらせてもらう。では、早速出発するぞ」


 あのおじさんのことは知っている。周りからヒデキさんと呼ばれて慕われていた。サポーターにも男女関係なく優しい人で、俺にも丁寧に接してくれた。あの人がいたからこそ、底辺ハンターにいじめられながらも何か月もサポーターとして頑張れたんだ。


 ちなみにトシヤっていうのは、名前も出したくないが柏木俊哉のことだ。この近隣のハンターでは一番ランクが高い、おらが村の英雄だ。いじめられてるサポーターの俺に対し、薄笑いを浮かべながら傍観していたクソ野郎。イツキとアツシにも腹が立つが、俺が一番嫌いなハンターはトシヤだった。


 ヒデキの言葉を皮切りに青白い光を放つゲートへとハンターたちが次々と吸い込まれる中、俺も意を決してそこへと向かっていく。さあ、本当の意味でのハンターライフはこれからだ。

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