第7話


 名前:梶原道明

 年齢:16

 性別:男

 ハンタータイプ:ユニーク系

 ハンターランク:E

 ダンジョン攻略回数:0

 腕力:F

 器用:E

 体力:F

 敏捷:E

 防御力:F

 魔法力:F

 精神力:C

 治癒力:E

 運:D

 所持能力:【神の目】【復活の温もり】【権威の舌】


 俺は【神の目】でステータスを確認してから制服に着替えると、ダイニングルームへ向かった。


 朝ご飯は母親が用意してくれていた。ご飯と目玉焼きとウィンナーだ。ケーキありがとうねと紙に書かれていて素直に嬉しかった。


 二人とも、夜勤で今は眠っている最中だ。俺は音を立てないようにそっと食べてから皿を洗い、学校へと向かった。


 昨日に比べたら、その足取りはとても軽いものだった。それもそうだろう。いくら【神の目】を手に入れたとはいえ、久しぶりに魔境へ行ったときとは状況がまるで違う。俺は正式にハンターとなり、さらに三つ目の能力【権威の舌】も手に入れたのだ。


 十秒見つめ続けるだけで存在を消せる【神の目】は最強の能力といえるが、じゃあ俺をいじめた連中に気軽に使えるかっていったら、いくら【復活の温もり】があるといってもそうじゃないからな。


 それに比べたら、【権威の舌】は気楽に使えるのでちょうどいい能力といえるだろう。もちろん、だからといって無暗に行使して能力をばらすつもりはない。それはケーキを一口で食べてしまうようなものだ。気づけば生ぬるい湯の中で茹でられていた蛙のように、連中をじわじわと苦しめてやるつもりだ……。


「ウミャァー」


「お」


 通学路を歩いていると、黄色の首輪をつけた黒猫が目の前を通りかかったので、俺はそっと近づき例の能力を試してみることにした。


「跪け!」


「ウナッ……⁉」


 猫は地べたにお尻をつけた状態になった。よし、効いてる。言葉の通じない動物相手にも効き目があるということは、たとえ耳を塞いでもこの能力からは逃げられないということだ。これなら大丈夫だろう。


「驚かせて悪かったな、もう行っていいぞ」


「ウミャッ」


 お詫びにとゴロゴロ言うまで喉を撫でてやり、【権威の舌】の効果範囲の2メートルを離れると、猫はまもなく立ち上がっていずこへと去っていった。


 学校へ到着して例の教室へ向かうと、俺の机には今日も花瓶が置かれているのがわかって、俺は思わず目じりを下げた。またしてもわざわざ目印を置いてくれるなんて本当に親切だ。なんとも爽やかで優しい気持ちになれる瞬間だ。


 リュウジは凄まじい形相で俺を睨みつけてきたが、昨日の影響があるのか何も言ってこなかった。さすが、認めたくはないがいじめの主犯格。慎重だ。


 芦口一哉あしぐちかずや――カズヤの姿も探したが、まだ来ていない。大方、遅刻してるんだろう。あいつは元々、『僕って朝起きるのが苦手なんだぁ……』って俺に弱り顔で言ってたくらいだからな。人間の癖はそうそう変わらなくて、不良の一員になってからも度々遅れて学校へ来ていた。


 二限目が終わった後の休み時間、教室に現れた長髪の男。それがカズヤだ。茶髪を掻き分けながら気怠そうな表情をしていたが、俺の顔を見るなり一転してにんまりとした笑顔で近づいてきた。


「よおよお、ミチアキちゃん。会いたかったぜぇえっ……」


「…………」


「おい、何黙ってんだよてめえっ! 死にてえってのかあぁぁっ⁉」


 カズヤが胸倉を掴み、鬼のような形相を近づけてくる。リュウジの言葉の刃もきついが、この男の乱暴な振舞いもナイフのように鋭利で俺の心をズタズタにしたものだ。


「ご、ごめん。お、俺も嬉しかったよ。カズヤさんに会えて……」


「そうかよ。ま、そうだよなあ。ミチアキちゃんは友達なんか一人もいないんだし、俺が慈悲の心でお前と遊んでやってるだけだかんなあ。感謝しろよぉっ!」


「は、はい……」


 やつが一転して馴れ馴れしく俺の肩に腕を回してきて、そのタイミングで怯えた顔を見せたことで、カズヤは満足そうな吐息を零してみせた。


 もちろん、この一連の流れはこいつを油断させるためにわざとやっていることだ。今の俺には怯む理由など何もないからな。噎せ返るようなニコチンの臭いがするのは、こいつがリュウジに影響されてタバコを吸い始めたからだ。最初は『ちゃんと肺で吸えよ』って言われて怯えてたくせにな。


「んじゃ、早速10万貰ってやるぜ」


「あの、それが……」


「んだよコラッ、とっととやれよ、ぶっ殺すぞ!」


「ひっ……い、いえ、違うんです。できたら、二人きりのときに渡したいなって」


「あ? なんでだよ、お前」


「だ、だって、お金をあげるところを周りに見られたら、羨ましいと思われて次々と要求されるかもって……」


「……あー、そういうことねえ」


 正視できないほど気持ち悪い顔で笑うカズヤ。俺がホイホイ札束を渡すところを見せれば、それに便乗してくるやつがいるので、俺がそれを恐れていると判断したんだろう。


 能力を知られたくない俺にとっては、こいつと二人きりのほうが都合がいいってだけなんだが。


 カズヤにしてみても、俺が裕福な家庭とは思ってないので、ほかのやつに渡さなくなる分、自分専用の金蔓になると考えて承諾するはず。


「よぉし、ミチアキちゃん、わかったわかった。俺も鬼じゃねえから、特別に許可してやんよ! んでよぉ、どこで取引すりゃいいんだあぁ?」


 ……こいつ、何が取引だ。一方的な強奪の癖に。今すぐ【神の目】で消したくなってくるが、我慢だ。こいつを懲らしめる処刑場は、誰にも見られないようにできるだけ人気のない場所がいいだろう。


「その……体育館の裏がいいかなって……」


「んじゃそうしてやる。ミチアキちゃん、俺が優しくてよかったなあ。普通のやつだったらお前みたいなゴミカス、挨拶代わりに最低でも顔面が凹むくらいぶん殴ってるぞ」


「は、は、はい。ありがとうございます……」


 俺はぶるぶると体を震わせながらそう呟いてみせた。我ながら迫真の演技といえるだろう……。

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