第6話
俺が自宅へ戻ったとき、目の前には両親と妹の姿があった。
「と、父さんに母さん。それに、結まで……?」
「ミチアキ、よくやったな、おめでとう!」
「本当に凄いわね、ミチアキ。あなたは誇りよ!」
「お兄ちゃん、かっこいい、大好き!」
「……う?」
気づけば、俺はリビングのソファにいた。どうやら、帰宅した後ここで少し眠っている間に夢を見ていたようだ。
両親はともかく、妹が迎えに来るなんてありえないからな。でも、みんなのためにケーキを買ったのは幻じゃなくて、現実だった。
ハンター試験に合格したってことで、ケーキを四人分買ってきたんだ。
誰もいないダイニングルームへ行くと、みんなが喜んで食べる姿を思い浮かべながら、俺はケーキを少しずつ食べた。
……ここからだ。奪われたものを、俺は全部取り返さないといけない。
だから、両親にはまだ知らせてない。久々に学校へ行ったことも、ハンターになったことも。
母さんも父さんも共働きでいつもくたくたになって夜遅く帰ってくるから、顔も見合わせていない。
じゃあ、それを言えば喜んでくれるかっていったら、俺はそうは思わない。表向きはそうかもしれないが、内心は違う。妹が植物状態なんだ。心の底から笑えるわけないじゃないか。
だから、家族が揃って笑えるまで、妹が帰ってくるまで……俺はこのことを絶対に伝えないつもりだ。ハンターとしては密かに行動する感じだ。
「う?」
BGMがいきなり流れてきて緊張が走る。俺の携帯の着信音だ。
まさか、主犯格のリュウジか……?
そう思ってメール欄を確認すると、送信主はやつじゃなかった。リュウジの腰巾着の一人、カズヤだ。
俺がいじめられる原因を作った男でもある。
元々、クラスではいじめっ子の標的になっていた男だ。俺が庇ってやったら、泣きながらありがとうってお礼を言ってきたやつなんだ。それからおよそ一か月間、友人同士として過ごした。なのに、そこからいじめっ子へと転じ、不良グループの一人として頭角を現していった。
恐る恐るメールを確認する。
『ミチアキちゃん。昨日学校きたってマジ? 俺はよお。だりーからサボってたけど、リュウジさんからメールがあってわかったんよ。その場に俺もいたらなあって。そしたら、久々に残酷ショーできたのに。お前の顔面をみんなでグーで殴って、どれだけ鼻血プシャーできるか競うゲーム、マジで面白かったよなあ。それが嫌なら、今度学校来るときは最低でも10万持って来いよ。じゃなかったら、顔面パンチングゲーム開始だかんなあ』
「…………」
読んでるだけで俺は鼻の奥が疼いた。こんな残酷なゲームでも、まだマシだと思える部類だったんだ。それくらい凄惨ないじめを俺は受け続けていた。
それにしても、最低でも10万か。随分と色をつけてきたな。仮に持って行っても、その日一日は無事でも、翌日からは地獄が待っている。
だが、もうこいつらのターンは終わった。俺は怒りの余り指を震わせながらメールを作成し、『わかったよ。持ってくるから酷いことをしなでほしい』と送信しておいた。
これでカズヤは腕を撫して明日登校してくるだろう。今や主犯格のリュウジとは比較にならないほど陰湿ないじめっ子と化したあの男が昨日いなかったのも、俺は運命としか思えなかった。もしあいつがいたら、俺は勇気を出せなかったかもしれない。
「「「「「ウゴォオ……」」」」」
「お、おいおい……」
なんてことだ。ダンジョンに入ったと思ったら、いきなり湧いてきた大量のゾンビども、どれだけ【神の目】で消しても、すぐに復活してきやがる。
これはあれか、不死属性だから、殺してもすぐ復活するっていうのか?
「こ、このままじゃやられる……!」
俺は四方をゾンビどもに囲まれてしまっていた。クソ、クソクソクソクソクソクソクソクソッ! ここでやられるわけにはいかないんだよ。俺にはまだやることがあるんだ。ふざけるな、ゾンビども。自分の意志がないお前らなんか、人間の下位互換にすぎない。
「跪けえっ!」
「「「「「……」」」」」
そのときだった。ゾンビたちが全員、俺の前に跪いたんだ。これは一体、どういうことなんだ? また新たな能力を得たっていうのか……?
「――はっ……」
俺はベッドの上で上体を起こした。
「……ま、また夢だったのか。よく夢を見るな……って、これは……」
目の前にミニゲームのウィンドウが表示されていたんだ。これで三回目か。ということは、あの奇妙な夢を見たのが功を奏したというわけだな。よし、ミニゲームの内容を見てみよう。
『半径2メートル以内にいる対象になんらかの命令をする。24時間以内にクリアできない場合、ペナルティが発生する』
自分の2メートル以内にいる対象に命令だって? 一方的にこっちが命令するだけで実行させる必要がないなら、それって人間じゃなくてもいいんだろうか?
試しに部屋の椅子に向かって動けと命令したが、ウィンドウには何も表示されなかった。さすがに椅子じゃダメか。ペットがいればよかったが、数年前に飼い犬のポメラニアンが亡くなってるんだ。
ただ、うちの両親は共働きだから夜遅くにならないと帰ってこないし、妹は病院にいてずっと意識がない状態だ。そんな植物状態の妹に命令なんて、心を捨てた自分にさえできることじゃない。
って、植物……? そうだ、植物なら一応生きているわけだから、ノルマを完了できるかもしれない。
俺は玄関付近ですっかり枯れかかってる観葉植物に水を与え、生き返れと命令してみる。
『ノルマ完了。【権威の舌】を獲得しました』
「おぉ……」
今度は【権威の舌】か。 【神の目】で効果を調べてみよう。
『【権威の舌】:半径2メートル以内の対象に土下座、あるいは跪けと命令することで、対象を強制的に土下座させたり跪かせたりすることができる』
「…………」
こりゃいい。カズヤに試し打ちするのにはぴったりだな……。
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