第5話
試験担当のスタッフに導かれて、俺は通路を歩いていく。
廊下は曲がりくねっており、その先にある扉の前でスタッフが止まった。
「ミチアキさん、こちらへお入りください。支部長がお待ちしておりますゆえ」
「はい」
支部長だって? そんな偉い立場の人間が何故、俺と直接会おうというのか。
扉がゆっくりと開かれると、中は歴戦のハンターたちの肖像画が並ぶ部屋だった。デスクの後ろには、落ち着いた表情の中年男性が座っていた。
「やあ、私が支部長の
「は、はあ……」
俺は少し緊張しながらも、堂々と部屋に足を踏み入れた。
「…………」
その際、俺は壁に飾られている肖像画を見つめた。Bランクでこの支部出身のハンターってことで、その程度の存在でも英雄として崇められてるってわけだ。
というかこのハンター、見覚えがあると思ったら、俺をいじめてきたE級ハンタたちーと知り合いだった男だ。
裏表が激しいやつで、女のサポーター(美人限定)にはやたらと優しいが、ブスや俺のような男のサポーターには冷たくあしらってきたのを覚えている。
俺はその肖像画を十秒間睨視した。もしこれが絵じゃなくて本物なら、俺はBランクハンターを倒したってことになるわけだ。
あの頃は俺をいじめてきた底辺ハンターにも腹が立ったが、それを傍観するどころか笑って見ていたこのハンターのほうに俺は強い憤りを覚えていた。おらが村のヒーローといえば聞こえはいいが、実質は井の中の蛙だ。こういうくだらないやつは今すぐ消えたらいいのに。
イライラしてきたせいか、俺はすっかり緊張が解けていたのもあり、真顔で支部長と向き合った。こうなったらとっとと用件を聞き出してやろう。
「それで支部長、俺にどんな用事があるのですか? 試験の結果はどうだったのでしょうか?」
「まあまあ、そう結論を急がずに少し話そうじゃないか」
「は、はあ……」
この男、やたらと笑みを浮かべて信用できない。一体何を考えているのやら。
「ミチアキ君だったね。私はこの支部にいてそこそこ長いんだが、君のようなハンター志望者は初めてだ」
「……と、いいますと?」
「筆記試験が0点なのに、実技試験が100点。これは前代未聞だよ」
支部長の男は興奮を隠しきれない様子で頬を紅潮させていた。
「あの筆記試験というのは、点数を見るためというよりも、いわばどのハンターであるかを探るものにすぎない。つまりこの結果は、君がハンターの中でもユニークタイプであることを如実に示している。私の言いたいことがわかるかね?」
「い、いえ……」
「これは世紀の大発見だよ。ハンターの常識というものを、根底から覆せるかもしれんのだ。私もかねてから、ユニークタイプの存在については興味を持っていた。そこでだ、その能力について詳しく調べさせてもら――」
「――お断りします」
これは俺の口から自然と出た言葉であり、迷いも悔いもなかった。
「なっ……ほ、本当に断っていいのか? 行動は多少制限されるが、できる限りの支援はするつもりだ」
「俺はハンターであり、実験体ではないからです。その代わり、あそこに飾ってあるような、くだらないハンターよりは上にいってみせますよ。それでもいいならハンター免許をください」
「くっ、生意気な……」
目を吊り上げながら立ち上がった支部長に対し、俺は躊躇うこともなく背を向けた。
「それなら別にいいです」
「あ、待ってくれたまえ! 君の力がどうしても必要なのだ!」
「支部長……いくら綺麗事で取り繕うと、俺にはその魂胆が見え見えなんですよ。俺はあなたの出世の道具にはなりませんよ」
しばらくの沈黙の後、深い溜め息が聞こえてきて、俺は支部長のほうを向いた。彼は諦めた様子で席に着いていた。
「……ミチアキ君、君の決意は本物のようだな。だが、私の目的は君の力を最大限に活かすことでもある。君の力が協会全体にとってどれだけの可能性を秘めているのか、どうかそこら辺を理解してほしい」
「俺の力は俺のものです。誰かのために利用されるつもりはありません。俺は自由に戦い、自分の道を進みます」
「……わかった。君の意志を尊重しよう。免許は君に渡す。しかし、君が協会にとって重要な存在であることを忘れないでくれ。心変わりしてくれることを切に願っているよ」
「ありがたく受け取っておきます。では、失礼いたします」
俺は支部長から直々にハンター免許を受け取ると、それを見ながら足早にその場を跡にした。
名前:梶原道明
年齢:16
性別:男
ハンタータイプ:ユニーク系
ハンターランク:E
ダンジョン攻略回数:0
【神の目】で自分を鑑定したときとは情報が変わっている。詳細な能力がわからない分、むしろ劣化しているといえるだろう。今後はこれらの新たな情報も【神の目】で見たときに追加されているはず。
ただ、確かこのハンター免許には特殊なセンサーがついていて、それがハンターの証明、ダンジョン攻略の証拠になるんだとか。つまり、現地で名前を明かさなくても免許さえあればダンジョンに入れるということになる。
ダンジョンから発せられる強力な波長は、ボスのいる奥へ行けば行くほど強くなるため、ボスを倒す、すなわちダンジョンを攻略したときに波長が途絶えたことも免許に搭載されているセンサーを調べれば一目瞭然なんだ。
また、ボスは普通のモンスターが稀に落とす小魔石も必ずドロップする。売却するとEランクのものでも10万はするんだとか。中魔石、大魔石も確率は低くなるが落ちる可能性もあるため、それらを売却して大金を稼ぐこともできる。
魔石は宝石やエネルギー源、特殊な効果を持つ装備品の材料にもなるってことで、需要が途絶えることはないといわれているんだ。
「…………」
俺はこれでようやくハンターとしての第一歩を踏み出せるということに、喜びだけでなく責任感も覚えていた。
心を鬼にするとは決めたが、それはあくまでも邪魔をしてくる者に対してのみだ。弱者を虐げるあの屑ハンターみたいにならないようにしないといけない。
妹の入院費も稼ぎたいし、ハンターとして誰よりも成り上がってみせる。俺は宙を睨みながらそう自分の胸に固く誓っていた。
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