第4話


 学校が終わってからすぐに俺が向かったのは、街の中心部にあるハンター協会の支部だ。


 仮に近隣でダンジョンゲートが発生した場合、まずは協会の人間が現地へ赴きダンジョンランクを調べてからハンターを募るという流れなので、俺はそこへ行くためにハンター免許を得る必要があった。


 やがて、歴史を感じさせる重厚な赤レンガの建物が見えてきた。元々は市庁舎だったらしくかなりの規模だ。


「ここが、ハンター協会の支部か……」


 いよいよなんだな。ただ、不安もあった。なんせ、俺はハンターはハンターでもユニークタイプだから、本当に試験に合格できるのかどうか。


 俺は深呼吸してから覚悟を決めて中に入り、奥にあるカウンターのほうへと足を運んでいく。


「いらっしゃいませ。今日はどういったご用件でしょうか?」


 受付には落ち着いた雰囲気の女性スタッフが立っており、笑顔で声をかけてきた。


「ハンター試験を受けたいのですが……」


 俺は少し緊張しながらも、まっすぐにそう答えた。


「かしこまりました。それでは、こちらの申請書にご記入ください。試験の詳細については、専用の担当者がご案内いたします」


 スタッフは丁寧に対応し、書類を渡してくれた。


 申請書に必要事項を記入した後、俺は待合室で順番を待つことにした。周りには、同じようにハンター試験を受けるために訪れた人々が緊張感を漂わせながら座っている。


「…………」


 みんな俺より一つ年下だと思うと複雑だ。15歳というハンターとして覚醒する時期から一年経って目覚めるっていうのは相当に珍しいだろうし。


「お待たせしました、ミチアキさん、こちらへどうぞ」


 試験担当の男性スタッフは俺を試験場へと案内しながら、具体的な試験内容や評価基準について説明してくれた。


 まずはハンターについての筆記試験をやって、それからVRを使った実技試験をやる予定なんだとか。


「――クソ、ダメだ……」


 筆記試験を受けたんだが、その結果は散々だった。


 どんな問題かって、『アタッカーが力を籠めるときに体の中でどのような現象が起きるか』とか、『マジシャンが魔法を使うとき、どのような心境が一番効果を発揮できるか』等、そのタイプのハンターでなければわからないような問題ばかりだったんだ。


 要するにユニークタイプは最初から眼中にないっていうか、除外されてるわけだ。その存在自体、協会からは認識されてないからなんだろうが。


 それでも、ここからが本番だ。実技試験で俺の能力を遺憾なく発揮できれば、必ずや合格できるはず。


 スタッフによれば、仮想現実であってもハンターとしての能力は問題なく適用されるということで、俺はより安心感を覚えた。


 仮想のダンジョンにて、5分以内にどれだけの敵を倒せるか、というものらしい。300秒もあるなら、【神の目】でかなりの数をこなせそうだ。


 VRゴーグルをつけると、周囲の景色が薄暗い洞窟と化すとともに、0点のスコアが表示される。俺は俄然、心臓の鼓動が高まってきた。いよいよだ。


 薄暗い洞窟内とはいえまったく見えないというわけではなく、暗闇に目が慣れてくると、かなり広々としているのがわかる。剣を持ったスケルトンがうじゃうじゃと闊歩し、目を光らせて獲物を探しまわっていた。


 そんな中、俺は点在する障害物の岩の一つに隠れた状態だった。ここがスタート地点ってわけだ。試験担当のスタッフの説明によれば、モンスターの攻撃を食らうとマイナス1点の減点になるが、一匹倒せば1点獲得できるのだという。


 俺はやつらに気づかれないよう、岩陰に隠れたまま、のろのろと歩く一匹のスケルトンに狙いを定めて【神の目】を使った。死ね死ね、消えろ……お、きっちり十秒後に消えてくれた。これで1点獲得だ。スコアにもちゃんと表示されている。


 俺はその調子で、一匹ずつスケルトンを消していった。現在のところ、15点だ。


 だが、一匹ずつじゃ効率が悪すぎる。こうなったら一度に複数のスケルトンを倒してやろうと思って、俺は骸骨が5匹も固まってるところを凝視することにした。


 死ね死ね……って、一匹岩陰に入り込んでしまって見えなくなったし、さらにもう一匹奥の通路へと引っ込んでしまった。


 それでも、残り3匹同時に消すことに成功し、これで18点だ。


 悪くない。悪くないが……それでも及第点といえるのかは微妙だし、いまいち効率が悪い。しかも、制限時間は既に残り60秒を切ってしまっている。


 筆記試験が散々だっただけに、このままじゃ落第は必至だ。視界に入った骸骨を全部倒したいが、どうすれば……って、そうだ。


「ここまで来い、骸骨ども!」


 俺は岩陰から出てそう叫んだ。すると、骸骨たちが一斉に目を光らせてこちらへ向かってくるのがわかった。


 よしよし、いいぞ。なるべく障害物のない空間に誘導し、スケルトンの集団を纏めて見つめてやる。こうしてみると物凄い迫力だが、やつらを視界に入れた状態で十秒間だけ我慢すればいいだけだ。


 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死んで死ね死ねぇ死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねよ死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねや死ね死ね死ね死んで死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねえぇっ……!


「「「「「ウゴォッ……!」」」」」


「うぁっ……?」


 モンスターの大群が一メートルほど近くまで迫ったタイミングで、大量の骨が視界から全て消え去った。スコアを見ると、輝く文字とともに100点と表示されていた。見紛うことなく満点だ。


「き、き……キモティイイィィッ!」


 思わずそう叫んだときには、『テストが終了しました』というメッセージや音声とともに周囲の景色も元通りになっていた。ゴーグルを取ると、試験担当のスタッフが近づいてくる。


「ミチアキさん、お疲れ様です」


「あ、どうも。結果はどうでしたか?」


「あの、それについて話す前に、一つがあります。私の跡をついて来てください」


「あ、はい」


 話したいこと? 一体なんだろう? スタッフさん、やたらと神妙な面持ちだった。まさか、不合格を告げられるんじゃないだろうな。そういう不安が脳裏をよぎったが、実技試験で満点を取ったわけだから大丈夫だと思いたかった。

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