カノジョが僕を拾いに来た

縞間かおる

カノジョが僕を拾いに来た

 半年前に「あなたとはやっていけない!」との言葉を僕にぶつけ、部屋を出ていったカノジョと……ザワッとしたカフェバーに居る


 カノジョが出て行ってから今日までの間に……取っ散らかった部屋と心を少しずつ片付けていって……僕は“日常”を取り戻していた。

 そんなある日、カノジョからメッセが入った。


 カノジョからの電話が嫌なら番号を消すとか着拒にすればいい。

 でなければメッセは既読スルーでも良かった筈!

 なのに僕はカノジョの呼び出しに応じ、グラスワインのアルコールの力を借りている。


 で、カノジョは “彩り野菜とチーズのアラビアータ”へフォークを挿し入れる。


「やっぱり順くんがいい」


「……どういう事?」


「そう言う事!」


「その唐突な言い方に僕はいつも戸惑ってしまうんだよ」


「だから、そういうところ!」


「どういうところ??」


「順くんはいつも……私の言動を抱え込んでくれるから……イイの!満たされるの!!」


「余計に分からないよ」


 カノジョはアラビアータを嬲ったなぶった唇を小指で拭い、僕を蠱惑的に見つめながら、その指先を舐める。

「それをここで説明させるなんて……順くんも『S』に目覚めちゃった? まあ、いいわ!順くんはてんで、満足できなかったけど……他の男との、何度も叫んで我を忘れるエッチで満たされても……その“行為”の残骸は私にばかり積み増しされたの!……そんなの酷いって!! 順くんも思うでしょ?!」


「……う、うん」


「良かった! 順くんならきっと分かってくれると思ってた! 私達、やり直せるよね!」


 そう言いながらオレの手の甲を引っ掻く様に撫でるカノジョのネイルは光沢の強いモスグリーンで……僕はワインの香りが鼻に付いた。


「ゴメン! 少し酔った……かな」


「相変らず弱いのねぇ~でもそれがあなただから……私はいいの! 今度の土曜にはあなたの部屋へ戻るから、色々手伝ってね!」


 こんな言葉を返されて……

 苦し紛れに掴んだワイングラスが……

 僕のため息で僅かに曇る。


 昨日までの僕の“日常”は潰えた。

 今、僕の胸の内を狂おしい嫉妬が渦巻いている。


 けれど僕は……

 ナマのニオイに塗れてしまったであろうカノジョを……


 抱けるのだろうか?


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カノジョが僕を拾いに来た 縞間かおる @kurosirokaede

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