まぁちゃん大変

尾八原ジュージ

まぁちゃん大変

 友だちと教室で遊んでいたら、うっかりして、四階の窓から下の地面に、どーんと落ちました。ぐるぐるーっと目が回って、気がついたらもう地面で、あおむけになっていたから青い空がたくさん見えました。

 四階の窓から、お友だちがみんな顔を出して、わいわい何か言っていました。わたしも手をふろうとしたら、右手がぐにゃぐにゃして、あんまり動きませんでした。左手もだめでした。だからもうおうちに帰ろうと思って、両方のうでをつっぱって、なんとかかんとか体を起こすと、のびるグミみたいになった自分の両足が見えました。頭の上からきゃーっとみんなの声が聞こえました。大きなクモを見つけたときみたいな声でした。それでよく見たら、足だけじゃなくて、うでものびるグミみたいになっていました。でも帰りたかったので、うーんとがんばってつっぱったら、なんとか立ち上がることができました。

 ぐにゃぐにゃだけど、おうちは近所なので、なんとか帰れると思いました。頭がかゆくなったので、ぽりぽりかくと、おとうふみたいなものがぽろぽろこぼれてきて、きたないので、かゆいけど、かくのをやめました。

 おうちは右の方なので、そっちにがんばって歩き始めました。ずりり、ずりり、と変な音がすると思ったら、それは自分の足音でした。

 お母さんは、洋裁がとてもとくいです。お針子のしごとをしています。だから家に帰ったら、おかあさんに、糸と針で、こわれたところをふさいでもらって、のびるグミみたいになった手足も直してもらって、そしたら明日は学校に行けるかもしれません。でも、あんまりぐにゃぐにゃのままだったら、一日くらいは休むかもしれません。学校は、休みたがる子もいるけど、わたしは好きです。それに明日は図工があるし、あさってはボランティアで紙しばいの人が来るので、休みたくありません。

 ずりり、ずりりと歩いていたら、もしもしと声をかけられました。

「つうほうが、ありましたよ」

 だれかなと思ったら、おまわりさんでした。つうほうって、何のことかわかりませんでした。わからないので、おまわりさんに悪いと思って、ごめんなさいと言って頭を下げたら、ぼとぼとって何かが落ちて、おまわりさんがひゃあーっと言って、その声が面白かったので笑いました。それから、またずりり、ずりりと家に帰りました。

 ようやく家につきました。玄関をあけて、中に入って、くつをぬごうとしたけど、うまくぬげませんでした。くつぬぎの上にひっくり返って、おかあさーんと呼びました。すると、お母さんが、はいはーいと言いながら、家のおくから出てきました。

「まぁー、まぁちゃんたいへん。お手てとあんよがのびるグミみたい。たいへんたいへん」

 そう言って、お母さんは大きな針箱を持ってきました。それから手足にゴムを入れたり、やぶれたところをぬったり、布をあてたりして、ぐにゃぐにゃを直してくれました。頭にはワタをたくさん入れて、穴があいたところをアップリケでふさいでくれました。

「まぁちゃんの好きな、リンゴのアップリケですよ」

 お母さんはそう言ったけれど、頭のうらは、自分では見えないので、ちょっとつまらないなと思いました。でも次の日もぐにゃぐにゃはちゃんと直ったままで、歩くのもちょっとぎくしゃくするけど大丈夫だったので、わたしはちゃんと学校に行きました。

 おはよーと言いながら教室に入りました。そしたら、きのういっしょに遊んでいたお友だちが、みんなぎゃーっとさけんで、おしあいへしあいして逃げていったけど、あわてて逃げた先が窓の外だったので、みんな四階からばらばら落ちました。

 窓から下をのぞいてみると、みんなぴくりとも動きませんでした。

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