第六章
第3話 魔力循環の弊害
「良し!!戻ってきた魔力に、あたらしい魔力を上乗せしてまた流すんだ。止めるなよ!!」
「うおっしゃー!!」
バッカスは気合十分で魔力を循環させる。
魔力は循環するたびにその力を増していき、ついにはバッカスが扱える限界まで膨れ上がっていく。
「ちょ、ルーズハルト!!これどうすんだよ!?」
慌てたように声を上げるバッカス。
他の生徒たちはその感覚が怖くてすぐに魔力供給を止めて制御することに集中していたが、バッカスに至っては供給を止めることはしなかった。
あまりの面白さに調子に乗ってしまったのだ。
「大丈夫です。個人の制御限界までしか魔力は乗せられません。ほら落ち着いてください。」
バッカスの慌てように心配になったハリーは、落ち着くようにと声をかける。
バッカスも魔力供給ができなくなったことを感じ、ほっと一息ついたのだった。
すると魔力は空気中に霧散して、キラキラとバッカスの周りに舞っていったのだった。
「あ、あれ?」
すると急にバッカスはその場にへたり込んでしまった。
顔面蒼白……血の気の引いたような顔色に、周りにいた生徒たちが慌てだした。
「ほんとバカだなバッカス。いきなり止めて霧散させたから、使ってない魔力がそのままお前の身体から出ていったんだ。先生も言ってたよね?〝個人の制御限界までしか魔力は乗せられません〟って。つまり、それをそのまま放出したらその分の魔力がお前の身体からなくなるに決まってるだろ?」
ルーズハルトは呆れたようにバッカスに話して聞かせた。
ただそれはバッカスにいったというよりも、心配してざわめいているクラスメートに向けてという側面が強かった。
「そうですね。ルーズハルト君の言った通り、使わずに放出してしまえば、今のバッカス君のように魔力切れを起こしてしまいます。ですのでリミットいっぱいまで魔力循環するのは基本的には奥の手といったところでしょうか。」
ハリーはルーズハルトの発言を引き取ると、追加で細かな説明を加えていく。
それによって安心したのか、クラスメートたちのざわつきは一旦の落ち着きを見せていた。
「皆さんも魔力循環が出来るようになってきましたね。次の段階です。その魔力循環の量をコントロールします。それが出来れば今度はその質を上げる練習です。これはまだまだ基礎中の基礎。出来て当たり前といったレベルですので、気負わずやっていきましょう。」
ハリーは叱咤激励ともとれる発言で、緩みかけた生徒たちの気を引き締めなおした。
ハリーの言葉に緩みかけた空気に緊張感が戻った。
「ではバッカス君は少し休んでいてください。皆さんは続きを行います。」
「「「はい!!」」」
生徒たちの凛とした声が訓練場に響いていた。
「ルーズハルトはいいのか?」
「あぁ、ハリー先生からバッカスを見ているように言われたからな。」
木陰で横たわるバッカスに付き添う形で、ルーズハルトの木にもたれて休んでいた。
バッカスは今だだるい身体に情けなさがこみあげてきていた。
「ほんと、失敗した……」
「だけどバッカスはいい経験をしたんじゃないか?普通は魔力欠乏何て、そうそう起こさないから。これからは気を付けることが出来るだろ?それにだ、戦闘中にその状況になった時の怖さもわかったろ?」
ルーズハルトの容赦のない追い打ちに、バッカスは泣きそうになってきていた。
齢9歳の少年には酷な話でもある。
だが魔導士として考えた場合はそうもいっていられない。
戦闘中の魔力欠乏は即死に直結してしまう。
さらには仲間にも被害が及ぶ可能性が高いのだ。
それについてルーズハルトはオーフェリアとルーハスから、学園に入る際に強く念を押されていた。
それだけ二人はルーズハルトの異常性に気が付いていた。
だからこそルーズハルトは少し脅すつもりで話をしていたのだ。
「よくわかった……これは怖いよ。今も自分の身体が自分のモノじゃない気がしているし。思うように身体が動かないんだ。」
「母さんが言ってたけど、それがこの世界の〝ことわり〟ってやつらしいよ。生きるモノすべてが持つ力。それが魔力だって。生きるために魔力が使われる。俺たちが動くことにも使われているんだってさ。」
ルーズハルトは借りてきた言葉で話しているため、自分自身も完全には理解できていなかった。
今はまだ、なんとなく言っていることはわかるというレベルである。
「やっぱお前の母さん……【聖女】オーフェリアはすげぇ~な。」
「自慢の母さんだ。」
バッカスが自分の母親を褒め称えている事が伝わったのか、ルーズハルトはなんとも照れ臭くなった。
だがやはり自慢の家族だけに悪い気はしなかった。
「どうですバッカス君。体調は戻りましたか?」
他の生徒の進捗具合が思いの他順調に進んでいた為か、その場を数名の補助講師に任せこうしてバッカスのもとへとやってきたハリー。
横になっているバッカスを心配そうにハリーはのぞき込んでいた。
「ごめんなさい先生。でもだいぶ楽になりました。」
「そうですか。ではルーズハルト君にお願いがあります。バッカス君の魔力操作を見てあげてくれませんか?」
ハリーからの突然のお願いに一瞬戸惑ったものの、ルーズハルトはそれもいいかなと考え、その提案を受け入れることにしたのだった。
次の更新予定
《勇者を陰で支える魔導騎士の近接無双》~幼馴染の賢者と聖女を守るため世界を駆け廻る~ 華音 楓 @kaznvais
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