第4話 祈りの先
エミリアの髪を乾かし終えて仲直りを果たした二人は、手をつないでオーフェリアが居るであろうダイニングに姿を現した。
別に手などつながなくても問題はなかったのだが、オーフェリアに対する仲直りアピールの一環でもあった。
これはエミリアからの提案で、ルーズハルトとしても断る理由などなかった。
「あら、きちんと仲直りできたのね。偉いわね。それじゃあ、朝ごはんにしましょうか。ルー君はパパを呼んできてくれるかしら?エミーはママのお手伝いね?」
「「はい!!」」
元気よく二人は答えると、ルーズハルトは家の裏にある畑に向かって走り出した。
エミリアはオーフェリアと共にキッチンに向かい、食器の準備を始めていった。
「パパぁ~~~~!!」
ルーズハルトは家の裏口から外に出ると、トテトテと走りながら大声で叫んでいた。
いつもの日課とはいえ、幼少期の身体には大分きついものがった。
だが、こうでもしないと畑の中からルーハスを探し出すのは容易ではなかったのだ。
ルーズハルトの家は農業を営んでおり、その畑の広さは町でも一二を争う広さを有していた。
それにはきちんとした理由も存在していたが、ルーズハルトはまだ聞かされていなかった。
少し走ると、ルーズハルトよりも背の高い植物の間から、ルーハスが姿を現した。
「あ、パパみつけた!!あさごはんだよ!!」
「お、おはようルー。それじゃあ、ここを片付けてから行くからそう伝えてくれるかい?」
そう言うと肩に担いだ大きな鎌を指さしてニカリと笑うルーハス。
ただ、その担いでいる大きな鎌にルーズハルトは若干引き気味であった。
それもそのはず、その大きさが尋常ではなかったからだ。
普通であれば刃先50センチくらいの大きい鎌を使う大人を、ルーズハルトも見たことはあった。
だがルーハスが使う鎌はそれで収まるようなものではなかった。
刃先は1mを優に超え、持ち手も3m近くあったのだ。
それを軽々と扱うのだから、ただものではないのは間違いなかった。
「じゃあぼくおうちにもどるね。」
「おう、頼んだよ。」
ルーハスに見送られ家に戻るルーズハルト。
いつかは自分もああなれるのだろうかと思うも、それを想像できないためにため息が出てしまった。
「パパ、おかたづけしてからもどるっていってた。」
「そう、じゃあルー君は手洗いをしようね。エミーはみんなのテーブルの準備をお願いね?」
ルーズハルトはオーフェリアに手を引かれて洗面台に向かっていった。
流石に今の今だったので、オーフェリアが魔導具の操作を行っていた。
ルーズハルトが一瞬手を伸ばそうとしたが、すぐにオーフェリアから咎められてしまったのだった。
手洗いを終えてダイニングに戻ると、エミリアが一生懸命ナイフやフォーク、スプーンなどを並べていた。
「ありがとうエミー。うん、間違いなく並べられているわ。さすがエミー。」
オーフェリアはエミーの背丈に合わせてしゃがみ込むと満面の笑みでギュッと抱きしめていた。
先程までルーズハルトに構っていたために、エミリアはご機嫌斜めであったの
だからと今度は目一杯エミリアをかまっていたようだった。
「(ほんと、こういうとこは敵わないな)」
ルーズハルトはエミリアの笑顔を見てそう感じてしまった。
この世界に来て久しぶりに感じた家族の温かみ。
自然と笑みが溢れてきていた。
ダイニングを暖かな空気が包み込んでいった。
「お、今日も我が家は仲良しさんだね。」
そんなほんわかとした空気の中、家主であるルーハスが作業を終えて帰宅した。
「お疲れ様。畑の様子はどう?」
「そうだね……
「そう。」と答えて過ごしだけ顔を曇らすも、直ぐにいつもの笑顔に戻ったオーフェリアは柏手を一つ打つとスクリと立ち上がった。
「それじゃあご飯にしましょう。今日はエミーが卵焼きを焼いたのよ。すごく上手にできたんだから。ね、エミー?」
「うん!!」
エミーは花が咲き誇らんばかりに全身で喜びをルーハスに伝える。
少し暗くなりかけたルーハスも、エミリアのその笑顔に喜びを爆発させる。
「そうか!!それは楽しみだね!!よし、早速頂こう。」
ルーハスは喜びもひとしおに席に着こうとする。
しかしそれに待ったをかけた人物がいた。
オーフェリアだ。
「あ〜な~た〜、その前にうがいと手洗いでしょう!!」
「……はい……」
いくら家主といえどもオーフェリアに敵うはずもなく、背を丸めてしょぼくれてみてるルーハス。
ルーズハルトは思わず吹き出してしまった。
それにつられるようにエミリアも笑い出した。
オーフェリアも怒った顔はそこにはなく、笑顔が溢れていた。
ルーハスもまた同じで笑顔になる。
うがい手洗いを終えたルーハスが改めて席につくと、朝食の開始だ。
「それじゃあ、主神ティセアルス様に感謝を。生を食らうことに感謝を。すべての生命に感謝を。」
ルーハスは机に両肘を付き手を組み祈りを捧げる。
ルーズハルト達も同じように合せて祈りを捧げる。
だがいつもルーズハルトは考えていた。
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