第2話 補給部隊救出作戦
「それについては私から説明しよう。」
一人の男性騎士が、一歩前に進み出た。
体の線は細く、本当に戦えるのかとルーズハルトは訝しがった。
だがそんな思いなど伝わるはずもなく、無駄に堂々と名乗りを上げ、説明していったのだった。
「第3騎士団第3大隊副隊長のダッテモーだ。現在我が隊は隣国国境付近で発生したスタンビードを隣国の部隊と合同で対処にあたっている。本隊が既に対応中であるが、その補給部隊に問題が発生した。通信魔導具での報告では
ここまで淀みなくスラスラと言葉が出てくることに驚いたルーズハルト。
要するに自分の部隊を損耗するのが嫌だから、お前たちがやって来いと言っているに等しかった。
しかも、断るはずがないよな?とでも言いたげに、やはりニヤついていた。
周りに騎士も無駄に鋭い目つきをしていたが、ルーズハルトは気にした様子はなかった。
だがそれすら分からないというだけで、この隊の程度の低さがうかがい知れた。
「残念ながら我が隊は諜報活動を主としております。
ルーズハルトは呆れる思いを心の奥に隠し、丁寧な態度を心がけて言葉をかけた。
だがそれが伝わるほど優れた人間ではなかったのだ。
「何、問題はない。貴殿らに頼みたいのは補給部隊を退避させることだ。何も戦闘を行えと言っているわけではない。それならば問題ないであろう?」
ダッテモーはそう話すと、一枚の紙を見せてきた。
そこには命令書と書かれており、すでに大隊長の印も押されていた。
「これは正式な命令書だ。これに従わない場合はどうなるか貴殿も分かっているであろう?」
今すぐにでもダッテモーを殴り飛ばしたい衝動にかられたルーズハルト。
その思いを何とか押し込めて、神妙な面持ちで対応していった。
「つまり、第5騎士団に話を通してあるというわけですね。」
「無駄な話し合いは必要ない。貴殿はその命令書を受領しサインをすればいいだけだ。下級騎士はつべこべ言わずに黙ってしたがっておけ!!」
ダッテモーはすでに我慢の限界を超えており、声を荒げるとその命令書をルーズハルトに投げつけた。
それですっきりしたのか、ダッテモーはまたニヤついた顔に戻っていた。
呆れの境地とはこのことだろうか。
ルーズハルトはこのやり取りがとても面倒になってきていた。
その為か、命令書を受け取りそのままサインをしてしまったのだ。
これには同行していたイザベルも少し驚いたようで、ルーズハルトに非難の目を向けた。
ルーズハルトはサインをするとそのまま作戦本部の天幕を出てしまった。
慌てて追いかけるイザベル。
その後ろからは「下級騎士が生意気だ」「田舎者が貴族に逆らうなど言語道断」「駒は駒らしくイエスだけ言っていろ」などなどの罵詈雑言が浴びせられた。
「誰かいるか?」
「ここに。」
ルーズハルトは虚空に話しかけると、すぐに一人の黒装束の男性が姿を現した。
全身黒で統一された装備で、武器にまでつや消しを施すなど徹底ぶりであった。
「あの天幕の中にいる騎士の素性をすべて洗い出せ。場合によっては静かになってもらった方がよさそうだ。」
「はっ、早速本部と連携して対処にあたります。」
黒装束の男はそういうとすぐにその場から姿を消してしまった。
「というわけでイザベルはすぐに部隊を編成。おそらくあの様子だとまともな増援を送っていないはずだ。物資の輸送部隊とはいえ撤退戦だったら物資も心もとないだろうな。輸送人員も確保してくれ。俺は先行して救援に当たる。イザベルは準備が整い次第すぐに出発してくれ。」
「全く……、わかりました。すぐに取り掛かります。あまり無茶はなさらないで下さいよ?お小言を喰らうのは私なんですからね?」
ルーズハルトは矢継ぎ早に指示を出すと、自分の準備に取り掛かった。
といってもすでにほとんどの装備は終わっており、あとは背負い袋に回復薬等を詰め込むだけであった。
だが、ルーズハルトがここまで準備を終えていたのには、明確な理由があった。
自前の情報網で、既に
しかし、自分の所属部隊ではないので口出しできず、ここまでずるずると長引いてしまっていたのだ。
最初の青年騎士へのいたずらも、その憂さ晴らしに過ぎなかった。
「じゃあ、先に行ってくる。後は頼んだよイザベル。」
「かしこまりました……」
呆れ顔のイザベルをよそに、ルーズハルトはすぐに出立した。
目指すは15km先の森林地帯。
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