第19話 歪み

「……っ! ハァハァハァ……っ」

私は外の戦闘音で目覚めた。

戦闘音……?

まさか、首領が死んだ混乱に乗じて、敵組織が攻めてきた……とか?

そう考えていると、樋口が血相を変えて駆け込んできた。

「美玲ちゃん!」

「樋口?」

「目覚めたばかりにおしかけて、すみません

 でも……中也さんが……っ!」

「中也……?」

思ってもいなかった単語が出てきた。中也?

「中也さんがどうしたの?」

「………。来てください。見ればわかります」

私は樋口に連れられてポートマフィアビル一階に行った。

そこには、中也さんと金色夜叉、姐さんが戦っていた。

辺りには複数の構成員の死体がある。

でも、中也さんがやったとしたら、まだ被害は少ない方だろう。姐さんが守ってたみたいだ。

姐さんは私を見ると、中也さんに一撃を入れ、金色夜叉に託し、私に近づいてきた。

「中也のとこの童か?」

「うん」

「手短に言うぞ、首領が死んで中也が暴走したのじゃ。ひとまず鎖につなげて、地下に放り込むぞ」

そういえば中也の様子がおかしい。暴れながら何かをブツブツ言っている。

「分かった」

私がそう返事をすると、姐さんは驚いたような顔をした。

「良いのかえ?」

「何が?」

「中也は主の育ての親みたいなものじゃろ? それをー、」

「かまわない。それが、太宰さんの遺志なら」

太宰さんがこうなることを想定しなかったとは思えない。だから、これは太宰さんの最後の命令なんだ。

中也を止めろっていう、最後の任務なんだ。

太宰さんがそう命じたのなら、私はあの人の操り人形になるだけだ。

「そうかい」

そう言って姐さんは、二つあるうちの一つの鎖を私に投げた。

「左は頼んだぞ童」

「分かった」

……中也さんが相手なら作戦が必要かな

イヴと綺衣羽が鎖を繋ぐとして……。私は……

囮かな。そこで中也さんに殺されよう。

太宰さん死んじゃったから、もう生きる理由ないし。

でもどうやって中也さんを引きつけよう……。煽ろうか

そもそもなんで中也さんは暴走してるんだろ……

耳を澄ませて聞くと、中也さんは太宰は俺が殺すはずだったのに、とブツブツ言っていた。

……そう言うこと。じゃあこの言葉が効くかな。

「中也、太宰さん自殺しちゃって、残念だねぇ?

 俺が殺すとか散々言ってたくせに…」

「手前ェ……」

予想通り、ブチギレたようだ。辺りにかかっていた異能が全てまとまって自分を襲ってくる。

私の身体はその重力に耐えられなかったようで、ボキっと音がした。

「ぁ…………」

あーあ、、普通にグシャって体潰してくれたら良かったのに。まぁでも、私の仕事は終わったよ。

だんだんと閉じていく目で綺衣羽と姐さんが中也に鎖を繋げているのが見えた。

そして、中也を異能で地下に飛ばしているイヴも。

これで、思い残すことは無くなった、よかっ……

私の意識はそこで途絶えた。


「美玲ちゃん!」

私が目を開けると、ベッドの横には樋口がいた。

「……生きてる……」

私は憂鬱な気持ちでベッドから起きあがろうとすると、手に力が入らなくて動けなかった。

足も動かないようだ。

「……?」

「あの、その……美玲ちゃん、実はー、」

樋口は私が中也さんとの戦いで首を骨折し、その後遺症で手足が不自由になったこと。それは治らず、一生車椅子暮らしになること。中也さんは今は落ち着いて地下でおとなしくしていることを教えてくれた。

そして、私が幹部に誘われていることも。…何を言ってるのだろうか。私なんかよりも適任な人が二人もいるのに。

「……ねぇ、鏡花と敦さんは?」

嫌な予感がして樋口に問う。そういう時の勘はなかなか外れてくれない。

「それが、行方知れずで……」

それを聞いて思わず乾いた笑い声が私の声から漏れ出た。

「そっか。ははっ、二人にも置いていかれたんだ私。そっかぁ……。

約束……したのにな」

樋口が俯いたのが分かった。その拳は強く握り込まれている。…樋口には関係ないのに。

そのまま動かなくなった樋口に車椅子を持ってくるように命じる。そして駆けていく樋口を見届けると、二人を呼び出した。

二人はこれから私がしようとしていることに気づいたみたいで、なにか言いかけていたが、私は無視した。すると、ちょうど樋口が戻ってきた。

「お待たせしました、美玲ちゃん。あの、どこか行くなら私が押してー」

「必要ない」

「え……、ですが……」

「イヴたちがいるから大丈夫。暫く、一人にさせて」

私がそう言うと、何かを察したようで

「………分かりました」

と言い、部屋を出ていった。 私はそれを見届けてから廊下に出た。樋口が気を利かせてくれたようで廊下には誰一人いなかった。

ちょうど良かった。私の目的地は…、太宰さんが飛び降りた屋上だから。

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