第14話 マリオネット

「う、ぁあっ……」

ある地下の一角では、昨日から子供のうめき声が響いている。まだ幼い女児の声だ。

そして、その右手と右足には重たい鎖がついていて、時折ガシャンと音を立てる。

それがわたし。

痛くて、怖くて、あの子たちに助けてもらおうとするたびに、気絶しそうなほどの激痛が全身を襲う。

昨日から、それの繰り返し。

「いっ、ぁああ!…た、ぃ!」

いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい

なんで………? なんでこんなことされてるの…?

わたし…………っ なにか悪いことした…?

「あ゛ぁ、ぃたい…やだぁ、あぁぁ゛っ」

いたい……助けて………っ だれか……

だれか……っ たすけてよ……

するとわたしの心の悲鳴が聞こえたのか、二人が出てくる。と同時に、わたしの体に激痛がはしる。

「いッああ……いやあ゛あッ………ッッ……」

頭の中がまっしろになって、ぼんやりしてきたころ、

ガシャンという音とともに体が地面にたたきつけられてヒュッ…と息ができなくなる。

「飯だ。食え」

さっきまで出入り口付近にいた男の人がわたしの前に立って言った。目の前に食べ物が置かれる。

食べないと…。いやだ、死にたくない。手をのばす。けど、のばした左手がふるえ、しびれてつかめない。

でもどうにか食べて、そして再び倒れた。

なんで…、なんでわたしはこんなことされてるんだろう。

さっきの人が近づいてくるのが見えた。ぼんやりと頭を上げると、手にあの鎖をもっていることに気づいた。

気づいても、もう遅かった。

「いっ……やだ!やだやだやだ! やめて……っ こ、来ないで!」

「まって……っ! あ、あああああ!」

何で、なんでなんでなんでなんでっ…… さっき外してくれたのになんで……

なんでまたその鎖をつけようとするの…? なんでなんでなん

「うああああっ……ッッ…」

いたい、いたい…… たすけて、たすけて…

きいて、聞いてよ… わたしは悪くないの……っ

「い゛あああっ!」

頭を抱えようとしても右手の鎖がじゃまをする。

体をまるめようとしても右足の鎖がじゃまをする。

「あ゛あああああっ」

叫び声は止むことを知らない。

つー、とほおを涙がつたった。

もう何も考えられない。わたしの、何がいけなかったの…? わたしは、どうしたらいいの…?

あの子たちも答えてくれない。もちろん、ドアに立つ黒い服のひとも。

だってあの人がわたしを痛めつけるから。悪いのはあの人なんじゃないの?

なんでわたしがいたい思いをしなきゃいけないの?

たすけて、たすけて、だれか、わたしをたすけて。

「………っ゛ぁ…………」

のどが痛い。ずっと叫んでいたからだ。ご飯食べるときと、寝るとき以外は全部。

痛い、いたい……

世界がどんどん白くなっていく。……どうして……

………わたしが、悪いんだよね。

わたしが、わたしが。 なんで…なんで…っ… なにがダメなの……?

「わたしは………わるいこ?」

分からない、わからない、ワカラナイ。

ポタ、とまた床にシミができた。

だれもたすけてくれない。

だれもたすけてくれない。

だれも、だれも。あの子たちだって、たすけてくれない。

それだけ、それだけだったんだ。 わたしがわからなかったのは

そっか、わたしがわるかったのは、わたしが誰かに助けてもらおうとしたことだったんだ。

あの子たちだって悪くない。わるいのはわたし一人。

「………ふ…っふふ」

あの子たちはやっぱりすごい。あの子たちが気づかせてくれたんだ。だれもたすけない、ひとりっていうのが正しいんだって。

もうあの子たちは《わたしの友達》じゃない。あの子たちはわたしよりももの知りで、わたしよりも《いい子》。わたしよりも《えらい》から《友達》じゃない。だからわたしは、あの子たちに《なにもおねがいしない》ことにする。ごめんね、わたしにつきっきりにさせちゃって。ごめんね、わたしが《わるいこ》で。もう、ワガママ言わないから。おねがいも、しないから。ごめんね。それから、気づかせてくれてありがとう。大好きだよ。イヴ。あいは。


そうして1ヶ月が過ぎた今日。目の前には、わたしの《恩人》が立っている。

「うん、いいね。じゃあ今日から次のことを始めようか」

『1日あの子たちに話しかけなかったら』わたしはいい子なんだって。ここ何日か、1度もあの子たちにわたしは会っていないから、

わたしは《いい子》。はじめて、ほめてくれた。あぁ…うれしい、うれしい。だれかにみとめてもらったのは、ほめてもらったのは、はじめて。

これが。しあわせ、なんだ。もう、手に鎖がついていようと、だれになにをされようと、関係ない。太宰さん。ださい、さん。

あなたがみとめてくれるなら、それだけでいい。

「じゃあ美玲ちゃん。今から私の言う通りにしろ。異能を出せ」

え、…え?なに?

「ああ、言葉を知らなかったかな。異能っていうのは君の、あの二人のことだ。

 もう一度言う、異能を出せ。」

出す?あの子たちをどうやって?ぬいぐるみもないのに?わからないわからないわからない。話しかけるのはいけないこと。どうやって?

なんでなんでなんでー

「うああっ!ぅ、うっ…いああっ!」

な、んで。なん、で。なんで。なんで、あなたがわたしをいためつけるの。なんで、あなたが。

「言う通りにしなさい。はぁ……私は悪い子は嫌いだよ?」

「えっ、あっ…あぁああっ!」

いたいいたいいたいいたいいたい。い、たい?

痛みが、やんだ。目の前には、あの二人がいた。

「ようやく出てきたね。まぁいい。もう一度やろうか。じゃあ戻って……出てきて。」

あの子たちが消えて、もう一度目の前に立った。わたし、《おねがい》してない。

そこにいる、目の前にいるのに向こうを向いている。ねぇ、こっち見て?

私はこっちだよ?

「いっ、あああっ!」

「だめだろう。異能を自分で使おうとしたら。私の言うとおりにしなさい。」

あ、ああ。わたしはわるいこ。ごめんなさい。もう、しないから。あの子たちに、会おうとしないから。

「分かったみたいだね。もう一度。出て……しまって。出て……戻って。」

何回か繰り返して、そして言った。

「ここまでできたらもういいだろう。一旦終わろうか」

わたし、いいこ?ねぇ、わたしを、みとめて、ください。みとめてほしい。いいこに、なりたい。

「……。美玲ちゃんは素直でいい子だね」

あぁ、しあわせ。


季節が過ぎた。

太宰さん、中也さん、樋口と銀さん。四人と訓練して、そしてみとめられた。

わたしはポートマフィアに属するもの。地位だって上がった。

しあわせ。ああ、しあわせ。

「太宰さん! 今日の任務ってなぁに?……ふふっ。楽しみだなぁ」

イヴ、あいは。ごめんね、そしてありがとう。わたしのこのしあわせは、ふたりのおかげだよ。

「……ふふっ」

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