第6話 印象
朝起きたらなぜか太宰さんから電話がかかってきた。
「おはよー谷崎くん。今日拾った女の子の入社試験するから監督よろしくねー」
「え、?」
「名前は雨窓美玲っていう子だから、それじゃ」
「えっちょッと待ってください!太宰さん!?太宰さ」
途中で電話切られた……。
「お兄様?どうなさいましたの?」
朝ごはんを食べていたナオミにも聞こえたようだ。あんな大声で会話していたら当然か。
「えっと、太宰さんが昨日女の子拾ったから入社試験の監督してほしいって…」
「まぁ! 私も一緒に行っていいかしら?」
「え?あ、いやナオミはー」
「いいですわよね??」
怖い。笑顔が怖い。
「あっハイ」
いつもこういう時に折れるのは僕だ。まぁナオミだからしょうがない。
僕たちは急いで朝ごはんを食べて探偵社に出社した。探偵社に着くと、太宰さんはいなかった。聞いてみると、医務室にいるらしいのでそこへ行くと、医務室で太宰さんが女の子と何か喋っていた。そして扉を開けようとして、手を止めた。側にはその子のものと思われる、ボロボロで血に染まった服があったからだ。え、まさか戦場とかで拾ってきたンですか?ッて聞きたくなるほどズタボロだった。説明してもらおうと医務室の扉を開けると、太宰さんは資料を僕に押しつけて早々とどこかへ行ってしまった。さっき、敦くんに助けてください的な目線を向けられた気がするけど、多分気のせいだ。
でも、本当にこんな小さな子供が…
「キミが美玲ちゃん?」
「うん!そうだよ? えっとー、お兄ちゃんはだれ?」
「僕は谷崎潤一郎だよ。こっちは妹のナオミ」
「よろしくお願いしますわ」
「うん!よろしくね!」
取り敢えず簡単な自己紹介をしたけど、とても感じのいい返事だった。
やっぱり戦場にいたとは思えない。というかまずまずこんな少女を前線には出さないか。僕が首を捻ッてると美玲ちゃんはさっき太宰さんに貰った服を着ようとしたのか
服を脱ごうとした。
「一寸待ちな!」
「ちょっと待ッて!」
与謝野先生と僕は同じタイミングで叫んだ。
「ちょっと僕、外出てます」
早足で医務室を出て扉を閉める。
「あらお兄様。そんなに慌ててどうなさいましたの?」
するとすぐにナオミが出てきてニッコリと微笑まれた。悪寒が走る。
「お兄様にそんなご趣味があったなんて。言ってくだされば何時でもご期待に応えましたのに」
「いや、、別に趣味とかじゃなくて……ナ、ナオミ! ここ廊下だから!やるなら別の場所で…あっ、ちょっ、ナオミッ!!」
少しして部屋に戻ると与謝野先生に苦言を呈された。教育上よろしくないから美玲の前ではくれぐれもイチャつくンじャぁないよ、とのこと。
僕は苦笑いしながら、とても嬉しそうな、楽しそうな表情をしている美玲ちゃんに目を向ける。彼女はハイネックの白いサマーセーターに御空色のサスペンダースカート、さらに水色の髪飾りをつけていた。
「かーわいい! さすが、みんなで決めたかいがありましたわ!」
そうなんだ。……っえ、?
「みんなで彼女の服を選んだの?」
「そうですわ!」
え…?僕には何の通達もなかったんだけど……
もしかしてハブられた…?
「み、みんなって……?」
「もちろん、女性陣みんなですわ!」
じょ、女性陣か~ びっくりしたぁ…
そういえば昨日の夜、ショッピングモールの服売り場の入り口で待たされたな…
なるほど、彼女の服を買っていたのか…
だとすると、一つ疑問が残る。
「でもナオミにもらったレシートにはそんなもの入ってなかったけど…?」
「ああ、それは太宰さんに払ってもらったからですわ」
「まぁ敦に払わせてたけどねェ」
「……。」
僕には想像できた。最初は反論していたが、だんだんと太宰さんに言い包められ、最終的にお金を出しちゃう姿が。
敦くん、ご愁傷座です。
「ほら、さっさと行きな 依頼主に会う時間が来るよ」
え、? 僕がさっき太宰さんに渡された資料を見ると、待ち合わせ八時三〇分と書いてあった。
の、残り二十分……
「二人とも急ぐよ!」
僕たちは急いで階段を駆け下りながら、そういうことは早く行ってくださいよ、太宰さん!と心の中で叫んだ。
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