第3話


 もう、梅の花も終わって、桃の盛りで、肌寒いが、空気は清澄で、なんとなくワクワクするような、今は例の、”いやおい”、弥生三月の早春だった。


 が、この季節には全国的に例の学校の「卒業式」があって、そのせいで雰囲気が切なくメランコリックな色合いを帯びてもいる。


 「虎斑先生、三年間お世話になりました。 明日はもう、ぼくら卒業式で、たぶん保健室に来るのもこれが最後で…あいさつに来ました」


 「まあ、わざわざありがとうね。Fくん、卒業したら、県外の高専に進むんだってね」


 「ええ…一芸入試というか?出席日数とか成績はふるわないけど、絵とか技術家庭の工芸品とかが評価されて、推薦で合格して…」


 「ええ、そうなんだってね。なんか聞いてたわ。頑張ってね。まだまだスタートラインについたばっかりなんだから。今はFくんでも最後にS級になりあがったらいいだけだもの。人生長いからね。」


「ありがとう!先生。」ボクは、思わず感極まって、涙をぽろぽろこぼしながらおいおい泣いてしまった。


 「じゃあね、せめてものはなむけにね、最後の保健の授業…実技偏?…してみたい? ていうか、受けてみてくれる? まあ卒業試験かしらね?ウフフ」


 ボクは、ハッとなった。耳を疑うような? なんだか青春ドラマか何かで聞くようなエロティックな台詞が、不意に親しい先生の口から漏れ出たのだ。

 いつものように、私物のゲーミングチェアに小粋に腰かけている先生は、ちょっと横を向いてタバコを吸っている。

 

 その瞳が、しかしちょっと淫蕩に光っている。

 スカーレットの紅を引いた口元はかすかに緩み、白い八重歯がのぞいていた…



… …


<to be continued >

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