第2話
「どうしたの? 顔色悪いわよ」
食事の手を止め、美希が俺の顔を覗き込んでくる。
「心配かけてごめん。ちょっと疲れただけ……」
「ほんと? さっきの人に何か言われたんじゃないの?」
——やってしまった!
ぎくりと、自分の顔が強張ったのを感じた。
美希と食事をしながら借金のことが頭から離れなかったけれど、借金のことは絶対に美希に知られてはいけない。
「全然違うって」
慌てて違う話題を振る。
「俺の顧客、話が長くて我がままな人多いからさ、今日も次の約束があるって言ってるのに、なかなか解放してもらえなくてさぁ。どうやったら年寄りの長話を切り上げられるかなーて、考えてて……」
そう言って笑うと、美希は「分かるー!」と、大きな声を上げて笑った。
「色々話したいことがあるのは分かるんだけど、こっちは他にもやることあるのにね。他にお客さんがいなくても暇ってわけじゃないのに、なかなか解放してくれなくて」
窓口担当の美希とは、客に対する不満で共通するところが多い。楽しい食事中に仕事の話はあまりしたくなかったけど、今は仕方がない。
「智也さんは優しいから、断り切れないんでしょ?」
「いやいや、君ほどじゃないよ。当行のミス癒し」
「それやめてよ、恥ずかしい」
そう言って頬を染めながらも、満更でもないのは知っている。
「そうだね。もうすぐミセスになるしね」
「ふふ……」
彼女の誕生日に、プロポーズした。
いつもより豪華なレストランにプレゼント。そこそこ大きな会社の社長令嬢である彼女へのプレゼントだ、俺の安月給なんか軽く吹き飛んでしまった。
同じ職場に勤めているため、懐具合はなんとなく分かるのだろう。彼女は無理しなくていいと言ってくれるけど、俺にも男としての見栄がある。「大丈夫。学生時代からこつこつ貯めてたから」と説明したら、世間知らずの彼女はあっさりその言葉を信じ、涙を流して喜んでくれた。
——この一番大事な時に、借金があることは絶対にバレてはいけない。かと言って、客の金に手を付けることも出来ない。給料で今月分の返済をして、その後はどうする? これから結婚に向かってますます金が必要になるというのに……
「ほんとに大丈夫?」
いつものレストランでの美味しい食事も、あまり喉を通らなかった。
「ごめんね、送ってあげられなくて」
「ううん。こっちこそ……」
「ゆっくり休めば明日は元気になるから」
駅前で軽くキスをし、手を振って彼女を見送る。いつもは車で家まで送ってやるのだが、俺の顔色があまりに悪いから運転はやめた方がいいと諭されてしまった。
とぼとぼと家まで1人で歩きながら考えても、何の解決策も思いつかない。俺は悩みすぎて痛みすら感じる頭を抱え、ベッドに潜り込んだ。
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