第6話

「すごーい!」

「カッコいい!」

「さすが部長!」

 1年女子が感嘆の声を上げた。

 一昨日の予選会で撮った写真を、写真部所有のノートパソコンでみんなで見ている。4人で撮りまくった写真の数はかなり多くて、みんなで見ながら先生に渡せる写りの良い物を選別している。

「やっぱ、亮平は上手いな」

 副部長が言う。

 副部長だって下手じゃない。自分のカメラを持参して、真剣な顔で撮っているのを近くで見ていた。だけど、選手の真剣な表情や躍動感が一番出ているのは部長の写真だと俺も思う。部長の写真を見ていると、俺ももっと頑張らなきゃと思う。

「あ、明梨が撮ったやつだ」

「間違いなく明梨だね」

 1年女子を中心に、笑い声が上がった。

「だってカメラで写真撮ったの、ほぼ初めてなんだよー!」

 中野の写真は酷かった。

 古くてもブレ防止機能が働いているせいか、ブレている写真はなかった。だけど、選手が端っこに写ってるだけの写真や、他校の選手しか写ってない写真、他校の選手に隠れて全く見えないなど、とても先生に渡せる物はなかった。

「初めてはこんなもんだって。これからいっぱい撮って慣れてきたら、良い写真いっぱい撮れるようになるから」

 部長が優しく言うと、先輩達も口々に慰めの言葉を言った。

「でも、一昨日すごく楽しかったです! 上手く撮れなかったのは残念だけど、すごく楽しかったです!」

 中野がきらきらした顔で言う。

「みんなで撮影会とかしないんですか? 遠征撮影とかしないんですか?」

 言われて戸惑ったような顔をしたのは、2年の先輩達。3人いる2年生男子は、多分アイドルオタク。彼らの遠征撮影は、好きなアイドルを追いかけて行くものじゃないかと、たまに聞こえる会話から推測する。

「みんな撮りたいものが違うからなぁ……」

 副部長が誤魔化すように、苦笑しながら言った。副部長は2年生の実状を知っているようで、それ以上詳しくは言わなかった。

「全員参加じゃなくても、有志だけの遠征撮影も良いと思うよ。因みに中野さんは、何処で何を撮りたいとかある?」

「やっぱり動物園で、動物が撮りたいです!」

 部長の提案に中野が満面の笑顔で答える。

「でも、一昨日も凄く楽しかったので、人を撮るのもいいなぁと思いました!」

 中野の言葉に、2年の先輩達が感心したように頷いている。先輩達が思っている人と中野が思っている人には、大きな隔たりがあるんじゃないかと思うんだけど……

「それに、きれいな景色も撮りたいとも思います! ね、鈴木君はいつもどこで写真撮ってるの?」

「えっ?」

 急に話を振られてドキリとした。

「こ、公園とか……近くの山に登ったりとか……」

「へえー……あっ!」

「明梨?」

「どしたの?」

 他人に話を振っていながら、何故か中野は、後ろの窓に突進して行く。中野を追って、女子2人も後ろに移動する。

 中野が走って行ったことがきっかけで、自然とみんなばらばらになった。部長と副部長はそのままパソコンを操作し、2年の先輩達は前の席に移動して、スマホを見ながら話を始めた。多分、アイドルの話だろう。

 高山が休みで話し相手もいない俺は、なんとなく、窓から少し離れた後ろの席に座った。

「晴れてきた!」

 中野の明るい声に誘われ、思わず窓の方に目をやる。中野はスマホを空に向けて、写真を撮っているようだった。

「見て見て! 後光が差してるように見えない?」

 スマホで撮った写真を、隣の2人に見せている。

「いやいや。それ、後光じゃないし」

「普通に雲の隙間から太陽が覗いてるだけだよね?」

「えー! そうじゃなくて、こう天から光が降り注ぐイメージで……」

「いやいや、そんなイメージ全くないし」

「なにをー….…えいっ! えいっ!」

「うわっ!」

「ちょっと何、いきなり……」

 突然、中野が女子2人にスマホを向け、写真を撮ったようだ。

「シャッターチャンスだと思って」

 中野は、悪びれた様子なく笑っている。

「やだ! ちょっと消してよ」

 1人の女子が言う。

「えー? なかなか可愛いく撮れてるよー」

「撮るならそう言ってよ、もう」

 もう1人も、髪を撫で付けながら言った。

「そうじゃなくて、自然な笑顔がいいんだよー」

 中野の言葉にハッとした。

 風景写真を好んで撮る俺も、最初は人を撮っていた。

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