第7話
写真を撮るのが好きな母。カメラ目線でポーズを取った写真より、遊んでいる時の自然な姿が好きだと言って、小さい頃の写真はカメラ目線のものは少なかった。小学生になると、母は自分のカメラを俺に貸してくれた。
俺は両親の働く姿やくつろぐ姿、笑った顔にあくびをする顔、そんな日常的な姿を好んで撮った。沢山撮った。だけどせっかく撮った写真は、恥ずかしいからと消されて、ほとんど残っていない。それから、だんだんと景色を撮るようになった。
写真を撮るのが大好きで、写真を撮るのが楽しくて、構図だとか発色だとかそんなこと何にも考えなくて、この瞬間を切り取って残しておきたい。ただそう思っていたあの頃。
俺は今、無性に窓際ではしゃぐ女子3人を撮りたくなった。だけど俺のカメラはここにない。写真を撮れない。だけど、今この瞬間を撮りたくて堪らない。
俺はポケットからスマホを取り出すと、カメラを起動させた。
『カシャ』
電子的なシャッター音がした。
ここからだと少し遠い。指でズームさせてさらにもう1度撮る。さらにズームさせ、中野を中心にした構図で撮る。
雲間から差す光は、楽しそうに笑う3人を祝福するかのように照らしている。
俺が夢中になって3人を撮っていると、1人がこっちを向いて真顔になった。
「ちょっと! 何撮ってんのよ!」
中野に言ったのとは全く違う、強い口調。
「ご、ごめん……あの……」
女子に睨まれ、しどろもどろになりながらも何とか声を出す。
「えっと……き、綺麗だなーと、思って……」
「えっ?」
女子から険しさが少し消えた。思わずとはいえやってしまった盗撮を許してもらわなければと、一所懸命言葉を続ける。
「えっと……光の中で笑ってる3人が、綺麗だったから思わず……」
「ほんと? 見せて見せて!」
明るい声を上げ、中野が俺の手元のスマホを覗き込む。
俺は慌てて、さっき撮った写真を表示する。
「すごーい! 綺麗に撮れてる」
中野が指で繰りながら写真を見る。残りの2人も中野の横から写真を見ている。
「ねえ、この写真送ってよ!」
怒っていた女子が嬉しそうに言った。
「あたしにも送って!」
「じゃあ、3人に送るよ」
入部当初に連絡先は交換した。ただ、連絡を取り合ったことはないから、これが初めてになる。
3人は、俺が送った写真を自分のスマホで眺めてご満悦だ。盗撮を許されてほっとする。
「やっぱり鈴木くんは上手だね!」
中野が満面の笑顔で俺を見る。顔が熱くなったのが自分でも分かった。
「一昨日も、一眼レフカメラ初めてって言ってたのにすごく上手に撮ってたし、スマホでもこんなに綺麗に撮るんだ」
中野の言葉に違和感を感じた。
「明梨と同じカメラ使ってたとは思えなかったもんね」
——同じカメラ?
「いつもは古いデジカメで撮ってるって言ってたよね? 私も安くてもデジカメ買った方が良いかな?」
中野の言葉に俺は困惑した。
「いや、ちょっと待って。確かに古いデジカメしか持ってないけど、今は最新の一眼レフカメラを借りてるって……」
「そうなの!? 最新って、どんなの?」
ざわりと胸が騒ぐ。
「どんなって、一昨日持って行っただろ?」
「えっ? 一昨日は私と一緒で、学校のカメラ借りたよね?」
「何言って……!!」
そこで俺は思い出した。カメラを借りる条件。
『そのカメラ以外で、写真を撮れなくなります。カメラだけでなく、携帯電話やスマートフォン、他のあらゆる媒体で写真が撮れなくなります』
俺はさっきスマホで撮影した。出来なかったはずの他の媒体での写真撮影が、出来てしまったんだ。
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