第4話

「えっ?」

 突然、電気が消えたかのように暗くなった。一瞬後には、夕暮れに染まる見慣れた街並みに戻っていた。

 突然の変化に呆然としていると、前から歩いて来るおばさんが、すれ違いざま変な目で俺を見た。後ろからベルを鳴らされ、慌てて端に避けた俺の横を通り過ぎた自転車のおっさんは、睨むように俺を一瞥して行った。

 ——どうなってるんだ?

 白昼夢を見たような、狐に化かされたような気分で、間抜け面をさらして立ち尽くす。

 だけど、手の中にあるこのカメラが、さっきの出来事が現実だと教えてくれた。




「これ……使っても大丈夫なのかな?」

 明らかに怪しい状況で怪しい少年から受け取ったカメラと、その付属品を見下ろしながら、腕を組んで考える。

 家に帰り着いてから気付いたのが、充電器やストラップなどの必要な付属品が、いつの間にか鞄の中に入っていたこと。俺は鞄を手放してないし、少年に触らせてもいない。いつ入れられたのか全く分からない。

 不気味と言えば不気味だけど、憧れのカメラが目の前に。ためらった時間は短かった。改めてカメラを持ち、電源ボタンを押してすぐにでも撮れる状態だと分かってしまったら、もう写真を撮りたくてたまらない。

 試しに、勉強机に某アニメキャラのミニフィギュアを並べて撮ってみる。背景の教科書類がいい感じにぼけて、思ったよりずっといい写真が撮れて、すごく興奮した。並べ替えたり角度を変えたりして、夕飯の時間まで夢中でフィギュアを撮り続けた。

 速攻で夕飯と風呂を済ませると、カメラを持ってベランダに出た。運の良いことに、今夜は満月だ。雲の隙間から顔を出してきた月に向かって、シャッターを切る。なかなかきれいに撮れなくて、設定を変えながら何度も撮っているうちに、いつもの就寝時間を大幅に過ぎてしまった。だけど、デジカメじゃ絶対に撮れないきれいな月の写真が撮れたから、大満足だった。

 翌日、カメラを持って近所の公園に行った。普段は見向きもしない雑草のような野花でも、カメラが良いとこんなにきれいに撮れるんだと感動した。今まで上手く撮れなかった鳩の飛び立つ瞬間までも、ブレなく撮れて感激した。

 カメラに対する不気味さや不信感は、あっという間になくなった。嬉しくて楽しくて、カメラを貸してくれた少年に、心から感謝した。

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