第3話
「ようこそ。なんでもレンタルショップへ」
「えっ?」
ゆっくりと目を開くと、そこは真っ白い部屋だった。
窓のない壁も、明るい天井も全部が真っ白で境目すら曖昧な、ただ白いだけで何もない10畳ほどの四角い部屋。その部屋の真ん中に、少年が1人立っていた。
「えっ? えっ? なんだ、これ?」
——さっきまで、あかね色に色づくいつもの帰り道を歩いていたのに、いつの間に、どうやってこんなところに入ったんだ?
「何をお求めですか?」
少年が、一歩俺に近付いて尋ねる。
抜けるような白い肌、白の長袖シャツに白い長ズボン。靴まで白と、部屋と同化しそうな装い。全身真っ白なのと対照的なのが、髪と目。艶のある真っ黒なショートボブの髪と吊り目がちな大きな黒い目が、白い部屋から浮き上がって見えて、きれいな顔立ちに反してちょっと不気味だ。
「あの……その……」
俺を見つめる不気味な少年から視線を逸らし、そっと後ろを見る。ここに入るのにくぐったはずのドアも見当たらなくて、背筋が寒くなった。
「俺は、別に……」
なんとかこの場から逃げ出すことを考える俺に、少年は後ろに回していた腕を前に出した。
「こっ……これは!」
差し出された少年の手にあるカメラを見て、思わず声が出た。
「カノンのイオキス!」
昨日もネットで見ていた一眼レフカメラ、カノンのイオキス。入門機としての評価も高く、買うならこれだと決めているカメラが目の前に!
「こちらでよろしいですか?」
目の前のカメラを食い入るように見る俺に、抑揚のない声が尋ねる。
「あ……あの……触っても、いい?」
カメラに伸ばしかけていた手を止め、少年を見る。なぜか少年への恐怖は消え失せ、俺の興味はカメラだけに向かっていた。
少年は無表情のまま「どうぞ」と言って、カメラを差し出す。俺はそっと憧れのイオキスを手に取った。
学校のカメラよりずっと軽くて小さい。だけど、ずっと高性能なのを知っている。カメラを眺め回している内に、意図せず電源が入ってしまった。ファインダーを覗きながら少年を見る。そのままシャッターを切りたい衝動に駆られてしまう。
「そちらでよろしいですか?」
少年が再び尋ねる。
「あの……あんま金ないけど……」
見てしまえば、手にしてしまえば欲しくなる。確かレンタルショップだと言っていた。買うより安いかもしれないけど、レンタル代がいくらなのか分からない。
「お金はいりません」
「は?」
意外な言葉に間抜けな声が出た。
「その代わり、そのカメラでしか写真を撮れなくなります」
「はい?」
さらに意味不明なことを言う少年。
「そのカメラ以外で、写真を撮れなくなります。カメラだけでなく、携帯電話やスマートフォン、他のあらゆる媒体で写真が撮れなくなります」
——摩訶不思議な条件だが、そんなことでこのカメラを貸してくれるのか?
「よろしいですか?」
——家の古いデジカメや滅多に撮らないスマホのカメラと引き換えに、こんな良いカメラを借りられる。
「分かった! 貸してくれ!」
俺は、叫ぶように返事をした。
次の更新予定
なんでもレンタルショップ(オムニバス短編集) OKAKI @OKAKI_11
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