第2話

 俺は、本気でカメラマンを目指している。テレビで観たカメラマンに憧れ、写真集の写真に憧れ、俺もあんな写真を撮りたいと思った。

 カメラマンが持つような大きなカメラは持っていない、家の小さなデジカメで写真を撮る日々。それでも、良い写真が撮れたらウェブから応募出来るフォトコンテストに応募しているが、入賞したことはない。

 高校で写真部に入れば、学校のカメラを借りて本格的な写真をたくさん撮れて、写真の勉強もできて、部員同士で切磋琢磨して腕を上げていけると思ったのに。

 この写真部の活動は、学校行事での撮影に加え、他の部から依頼があった時に撮りに出掛けるくらい。自主的な撮影会や写真部の大会などの積極的な活動は皆無。自主的に写真を撮るのは、文化祭の展示用写真だけ。




「見て見て! これ、良く撮れてない?」

 甲高い声が上がった方をチラリと見る。女子3人組の1人、中野明梨が他の2人にスマホを見せていた。

「きゃわい!」

「ヒナタちゃん、ほんと可愛い! マジ天使!」

 ヒナタとは、中野の飼い猫の名前らしい。度々話に出るから、俺まで覚えてしまった。

「でしょでしょ? 奇跡の1枚!」

 中野は、自己紹介の時に猫を飼っていると言っていた。動物全般が好きで、動物の写真を沢山撮りたいとも言っていた。そう言いながら、撮影機器はスマホのみ。デジカメすら持っていない。学校関係で撮影に行く時は学校のカメラを借りられるから、問題はないけれど。

 クラブ勧誘の時に「スマホでも、写真を撮るのが好きなら大歓迎です!」と言っていたのがマジだと知った時は、この高校を選んだこと自体を後悔した。

 つまり、俺ほど真剣に写真を撮ろうとする奴は、この部にはいないということだ。




「鈴木は陸上部の予選会、行くのか?」

「行くよ。高山は行かないの?」

「面倒だから今回はパス」

「やっぱり……」

 高山のやる気のなさに苦笑が漏れる。

 同じ中学出身の高山は、小柄だけど運動神経が良い。中学までサッカー部に所属していたのに写真部に入部届を持って来た時は、思わず理由を聞いてしまった。高山は3年の部長の前でも物おじすることなく「楽そうだから」と答え、部長は苦笑いを浮かべながら入部届を受け取った。

「サッカーは嫌いじゃないけど、もう限界が来てたしな。前から写真には興味あったんだぜ。ちょうどSNSでも始めようかと思ってたからさ」

 写真に興味はあるけど、それはSNSに上げるためで、他人の写真を撮るのに興味はない。つまり、休日に他の部活動の写真を撮りに出掛けるなんて、面倒以外の何物でもないと言うわけか。

 まあ俺も、正直ちょっと面倒だと思ってる。俺が撮りたいのは風景写真で、人物写真に興味はない。だけど、本格的なカメラを使える機会が学校行事しかないなら、面倒でも行くしかない。

「じゃあな」

「また明日」

 高山と別れて、夕暮れの道を家に向かってとぼとぼと歩く。

「カメラ、欲しいな……」

 家の古いデジカメで、コンテストに入賞出来るような写真が撮れるわけがない。小遣いとお年玉でいつか買おうと目論んでいるけれど、貯金はなかなか貯まらない。

 うつむきながら歩いていると、突然、目の前が明るくなった。眩しさに思わず目をつぶる。

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