30 ──殺人鬼の独白:6──

 人が生きるに於いて一番重要なことはなんだろう。

 人はそれについて思いを馳せ、時に悩み、時に答えを出し、進むだろう。

 自分の場合はそれが、殺人だった。


 人を殺すこと。

 それに対してこんなにも「生きている」と感じ幸福を覚える自分を、どうして人は「悪」だというのだろうか。

 守るべきルールを遵守することが、確かに人間社会で生きる掟なのかもしれない。けれど人間は、「世界」に生かされているじゃなないか。

 家畜の肉を食べ、獣は駆除し、自分たちの幸福を守ろうとする。

 それを善しとする。

 

 だからこそ、分からない。

 

 牛や豚を屠殺することと、人を殺すことの何が違うのか?

 前者は食べるため。後者は愉しむため。という違いはあるかもしれない。けれどそのどちらも「幸福」に繋がるものだ。

 行き着く場所は同じなのに、社会は自分の「幸福」を否定する。

 何故だろう。

 何故だろう。

 何故だろう。

 ……考えても仕方ない。男と女の違いがあるように、自分と他者は違うのだ。

 それに今、自分の心は幸福に弾んでいる。これが一番重要なことなのだ。

 そしてこの生の意味をもたせるほどのものを、自分は見つけることができた。

 鮮やかな出会い。

 世界の色を変えるほどのこの出会いを、きっと運命と呼ぶのだろう。

 

 あともう少し。

 あともう少し。

 あともう少しだ。

 

 うつくしいひとよ。


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