21 ──殺人鬼の独白:4──
やはり黒髪がいい。
艶やかな黒髪。
幼い頃から馴染みのある、美しいひとの黒髪。
はじめて見た時から「この人だ」と思った。
最後は、あの人がいいと思った。
その人は整った顔立ちをしていて、最後を飾るには相応しい「蝶」になれるとも思った。想像するだけで興奮が高まってきて、何度も何度も、あの人を解剖するのを夢見てはオーガズムに達した。
想像だけでこんなふうになってしまうのだから、実際にあの人に触れ、刺し、切り開き、ピンで打ち付けたら――ああ! 自分は一体どうなってしまうのだろう!
暗闇の中、部屋の隅で「蝶」の欠片の標本を抱きしめながら、にやにやと笑う。こんな自分を知る者は誰も居ない。世界で唯一知る人達は皆、葬ってきた。
それが少し寂しく思う。殺人鬼という自分。それがまさに、自分であったし、その心の本性をを見る者は今やどこにもいない。
身体に障害を持って生まれた人が障がい者と言うのならば、自分は殺人の業を持って生まれた殺人鬼に違いなかった。少なくとも「あのこと」が無くとも、いずれは何かが引き金になってこうなっていたと思う。
あのことは、他人から見たら悲劇だったのだろう。けれど内在する己は、あのことに対し歓喜していた。興奮もしていた。であるからにして、あれは運命だったのだろう。人生におけるターニングポイント。それが「あのこと」にあった。
あのことを考えると、森の匂いを感じる。土の匂いと、それから血の匂い。
そして思い出すのはやっぱり――黒髪だった。
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