17 ──殺人鬼の独白:3──
男を狩るほうが、女を狩るよりも簡単なのかもしれない。
何故なら男の方が性欲というものに忠実だからだ。女だと、なかなかこううまくはいかない。狩り方を変えてみたが、これはこれでありなのかもしれないと思った。場所はどこだっていいのだ。大事なのは人間。すがたかたち。そして殺し方。それが重要だった。
自分にとって何故、これほどこの殺し方や獲物のかたちが重要なのか。考えてみたが、やはり幼い頃の環境や出来事が自分をそう作り上げたのだと思った。どうだっていいことかもしれないけれど、それは大事なことだった。
黒髪の男はベッドの上に転がっている。見目の良い、爽やかな男だ。腹の皮は蝶の翅のようにべろりと切り広げられ、ネイルガンで釘打ちした。きれいだ、と呟く。
美しい男の腹で赤い翅を広げている、美しい蝶。濃いピンク色の臓器は見ているだけで愛おしく、できることなら貪りつきたいくらいに深くキスをしたかった。想像しただけで涎がじゅるりと口の奥から溢れた。腰が重く疼いた。食欲と性欲は似ているのかもしれない。でも決して自分は、食べたいわけではない。屍姦したいわけでもない。これをただただ愛しているのだ。脳裏に浮かぶのは美しい黒髪。懐かしい情景。
果たして自分は産まれる前からずっとこうだったのだろうか。それとも産まれてからこうなったのだろうか。考えてみることは何度もあった。周りの人間と自分は違うと気付いたのは、友人たちと集まってスプラッタ映画を見ている時だった。気持ち悪い、もう見たくない、と痛々しい表情で言う友人達を尻目に、どうしてだろうと思った。どうして自分はこんなにドキドキしているのだろう。興奮しているのだろう。下半身が熱くなるのを感じて、最初は戸惑った。けれど他の人達が性的に興奮するというアダルトビデオを見て確信した。アダルトビデオには全く興奮しないのに、死体や死にかけの人間に酷く興奮する自分を見つけてしまった。同時にまだセックスも何も知らない幼い頃に感じたあの高揚は、絶頂に近いものだったのだと。だから、幼いころの「あれ」がなかったら今、この世界に自分という連続殺人鬼は存在しなかっただろう。ベッドに腰掛けて夢想し、回帰する。
この男を解剖する瞬間のことを反芻するように、何度も何度も頭で繰り返す。
その度に脳がじんと痺れて全身が細波立ち、たまらない気持ちになる。ただ刺すという行為には足りない。やわらかな素肌に刃を入れ、切り開く時が、一番ゾクゾクして、その皮膚を四方にベリベリと広げる瞬間は、絶頂よりも鋭く重い快楽を得るのだ。
次はいつ殺せるのだろう、いつ、解剖できるのだろう。
それを思うと未来は明るく、光り輝いているように思えた。
その光に群がる蝶を、自分は摘み取るのだ。
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